メガベンチャーが取り組む、カルチャー浸透と人的資本開示(マネーフォワード 石原 千亜希 氏×GPTW Japan 荒川 陽子)
更新日 2023.04.132023.03.14対談
Great Place to Work® Institute Japan(GPTWジャパン)は、2023年版日本における「働きがいのある会社」ランキングベスト100の記者発表会を3年ぶりのリアル開催で実施しました。ベスト100に選出されたマネーフォワードグループから、株式会社マネーフォワードの人事全般を統括する石原 千亜希氏に、従業員の働きがい向上における取り組みをご紹介いただき、その内容を受けてGPTWジャパン代表の荒川陽子とのトークセッションを実施しましたのでダイジェストでお届けします。
※本記事は2023年版日本における「働きがいのある会社」ランキングベスト100記者発表会の抄録です。
※同日に開催された石原氏による講演の内容はこちら:マネーフォワードグループ 導入・取り組み事例
テーマ① 事業拡大時において、管理職をどう巻き込んでいくか
荒川:マネーフォワードの急激な社員数の伸びの中で、いかにカルチャーを浸透していくかという話から伺っていきたいと思います。成長企業の方とお話をしていると、拡大期に働きがいが落ちる傾向にあります。我々の調査によると300名が一つの壁となっているようです。ここを乗り越えられるかどうかが非常に大事かなと思っております。ひとつのポイントは、管理職を巻き込むことだと考えていますが、どのような取り組みをされてきましたか。
石原様:マネーフォワードでは、そもそも、ミッション・ビジョン・カルチャーに共感し、そこに想いを持っている人を採用する方針をとっています。そのため、基本的には、カルチャーに対してネガティブな人はいない前提です。とはいえ、そのまま何もしないでカルチャーが浸透するかといったら、そういうわけではありません。すごく重要だなと思っているのが、トップマネジメントがどこまでカルチャーの重要性を自ら語れるかです。
例えばマネーフォワードの場合、代表の言葉で書かれた『失敗を語ろう』(辻 庸介/日経BP)という本を活用しています。創業期からどんな失敗を重ねて今に至っているのか、創業当時のメンバーは知っていますが、新しいメンバーは知らないんですよね。これだけ規模が大きくなってくると、ストーリーを語り継ぐ人が減ってしまいますし。
荒川:なるほど。
石原様:新しいメンバーには、こういったストーリーを通じて、マネーフォワードが何を大事にしているのか、経営者の言葉でしっかり伝えることが大事だと思っています。
そして、この本の主題になっている「失敗」ですが、働きがいを高めていくためには、失敗しても、その経験を活かして次のチャレンジができることが大事です。そういう意味で、この本は、カルチャー浸透だけでなく、働きがいも底上げしているかもしれません。
トップマネジメントからカルチャー浸透の流れをつくる
石原様:GPTWの調査結果をもとに、働きがい認定企業と比較して見ても、当社は「経営・管理者層は失敗を許容している」という項目で高いスコアが出ました。これが当社の強みであり、特徴と捉えています。
管理職を巻き込むことも大事ですが、やはり、トップマネジメントが発信することがさらに大事なのかなと思います。マネーフォワードでは、先ほど例に挙げた書籍以外にも、毎週の朝会でも地道に発信し続けています。トップマネジメントが自分の言葉で語れるようになると、ひとつ下の階層である本部単位にも波及します。それがさらに部単位に降りていく、という具合に浸透していくものだと思っています。やはり、トップマネジメントがまず背中を見せることが大事なのです。
荒川:お話を聞いていると、『失敗を語ろう』(辻 庸介/日経BP)は、一般に発売された書籍ではありますが、社員に向けて会社のストーリーを伝える狙いもあったのでしょうか。
石原様:そうですね。一部、社史的な内容もあるので、入社日に全員に配っています。最近では日本語を話せないグローバルのメンバーも増えているので、英訳する話も出ています。そのくらい気合を入れてやっています。
テーマ②人的資本開示の取り組みのきっかけや効果について
荒川:人的資本の情報開示を進められていますが、その中で言及されていた「Talent Forward(社員の可能性をもっと前へ)」から、社員のもてる力を最大限に発揮していくことを追求されていると感じました。開示を始めようと考えられたきっかけや、取り組む上で大事にしているポイントをお教えください。
石原様:実は、「Talent Forward」という取り組みを開始したとき、私はIRの担当だったのですが、その頃は、ちょうど投資家からESGへの関心が高まってきたタイミングでもありました。私自身が、積極的にダイバーシティを進めたいという考えもあったので、当初は、IR担当者として、開示に向けて、人的資本に関する取り組みを整理することを始め、今は、人事の責任者としてそれを継続しています。
やはり、ここでも重要なのは、ストーリーを伝えることです。その上で、外せないポイントを明確にすることです。印象として、ESGの中の重要項目をたくさん掲げている企業様が多いと思います。すると、従業員から見た時に、重要なポイントがわかりづらくなってしまう。そのため、弊社ではできるだけ覚えられるように絞り込みました。
荒川:人的資本開示を進めた結果、社内外で何か反響はありましたか?
石原様:ESGの重要ポイントをまとめて発信したことによって、社内からは「社員を大切にする会社だとわかっていたけれど『Talent Forward』をESGの重要ポイントに入れてくれたことがすごく嬉しかったです」という話がありました。また、投資家向けの報告書でも人事に関する内容を厚めにしようという話が出てきています。すでに、海外の投資家向けの「Investor Day」というイベントの中でも、人を大事にすることが経営上どう大事なのかという話をしたり、具体的に今どんな取り組みをしているか開示したりしています。
また、「これまでは採用に重点を置いていましたが、これからは育成に注力します」というような、人事の方針も社内外に発信しています。会社がこの規模になってくると、人事側が何をしているのか見えづらいものです。施策の裏側にどんな意図があったのか開示することで、社員にポジティブに捉えてもらえますし、開示を増やしたことで社外の方にも「分かりやすい」と評価されています。
人的資本開示の最初の一歩は、客観的な「強み」と「弱み」の把握
荒川:人的資本開示は、ストーリーを持って伝えることが大事だなと私も思っております。他社と比較可能な数値を開示することに加えて、個別の会社らしさや、強みを伝えることが大事ですね。
とはいえ、他の企業様はどうやって人的資本の情報開示をしたらいいのか、未だ模索中であるという印象で、女性の管理職比率などの数値だけ開示されているところもあります。「こんなところからやってみるといいよ」というアドバイスをいただけますか。
石原様:人事部門にいながら、自社の強みと弱みや、会社がどこに向かっているのかを客観的に把握することは難しいので、それがハードルになっているのかな、と感じています。それをクリアするために、外部の調査に参加するなどして、客観的に自社のことを把握すると良いかもしれません。
そしてもう一つ、ストーリーで語るという点では、人事が経営陣と密につながり、人事制度が経営戦略の実現に貢献できていることが、重要だと考えています。人事制度と経営戦略が目指す未来に乖離があると、一貫したストーリーになりません。仰々しく捉えなくてもいいので、人事側のアクションとしては、人事以外の経営陣とコミュニケーションを密にしながら、何が課題なのか話し合い信頼関係をつくることだと思っています。
株式会社マネーフォワード People Forward本部 本部長 石原千亜希氏 プロフィール
Great Place to Work® Institute Japan 代表 荒川 陽子 プロフィール
※ 本内容は2023年2月時点の情報です。