シニアの働きがいを高める働き方 「誇り」を高める自営型ワークスタイル

更新日 2023.10.052023.10.05オピニオン

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Great Place To Work® Institute Japan(GPTW Japan)は、「働きがい認定企業」(2021年7月~2022年9月調査実施)の中から、特にシニア(管理職を除く55歳以上)の働きがいに優れた企業を規模別に選出しました。記者発表会にて同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科 教授の太田肇氏より、シニア活躍のカギについて解説いただきましたのでその内容をご紹介いたします。

●選出企業一覧はこちら
2023年版 シニアランキング選出企業一覧

※本記事は2023年版 日本における「働きがいのある会社」シニアランキング 記者発表会の抄録です。
※太田氏、シニアランキング大規模部門5位に輝いた、大和リース株式会社 上席執行役員 人事部長 佐伯氏、及びGPTW Japan代表 荒川によるトークセッションの様子はこちら:シニアの働きがいを高めるために、企業ができることは何か?

「働かないおじさん」が生まれるのはのはなぜ?

opinion_231005_01.jpg昨今、「働かないおじさん」という見方によれば差別的な言葉が流行りました。私個人の印象としては、働かないおじさんは決して本人の責任だけでなったわけではないと思います。そもそもシニアが働く意欲が低いという考えに、疑問を持っています。

脳科学者によると、人間の知能は使い続けている限り、年齢とともに成長することがあっても、衰えることはないそうです。これを裏付ける調査もあります。日本生産性本部が実施した調査によると「技術者として第一線で活躍できる平均年齢はいくつぐらいですか」という設問に対し、日本では30歳代後半と40歳代前半が合わせて6割という回答になりました。アメリカ、イギリス、ドイツを見ると、年齢別では50歳以上が最も多く、しかも年齢に関係ないという回答が7割以上を占めています。日本で大半を占める30代後半、40代前半は、合わせても10%に満たないのです。

日本人と欧米人の頭脳、あるいは人間そのものが違うとは考えられません。これはまさしく、制度が生み出した結果であるのが私の理解です。

年功性からジョブ型へのシフト

年功制のもとでは年齢を重ねると給料が上がります。ところが能力は少しずつ伸びたとしても、給与や職位はそれ以上に上がっていくので能力とのギャップが広がっていきます。そのギャップが広がるのが40代以降ぐらいです。「報酬に見合わない貢献しかできない」とされて、「働かないおじさん」という言葉も生まれていると考えています。年功制が作った産物が能力的な限界なのです。

そこで注目されてきたのが、いわゆるジョブ型雇用です。年功制に代わって、能力で処遇するシステムです。現実的なのは、ミドル層からジョブ型に切り替えていくことが、一つの有力な選択肢ではないかと思っています。

そしてジョブ型にすることで、労働力が過剰気味なところから、不足している業界や企業、地方などに転職する労働力移動もスムーズに行えるようになりますし、最近言われるリスキリングなども容易になるメリットがあります。

ジョブ型にも限界がある

理屈で考えればアメリカやイギリスのように、年齢関係なく60代、70代になっても第一線で働き続けることができます。定年は不要になるはずです。しかし、このジョブ型を導入するにはいくつかの壁にぶつかります。まず、ジョブ型の基本は、ジョブがなくなれば、その会社で働くことが難しいことです。また労働市場も欧米のように流動化していないので、仕事がなくなったらといって辞めてもらうわけにはいきません。

ジョブ型の場合、能力が高く、上位のグレードに移らない限り、給料が上がらないのが原則です。逆に言うと、グレードが上がればいくらでも高くなります。その結果、同じ職種内でも、給与に格差が生じます。さらに、ジョブのように細かく仕事を限定すると、シニアの持つ能力が十分に生かされない可能性があります。

ジョブ型は、欧米で産業革命後の少品種大量生産を行うため、全体の業務をブレークダウンして割り当てるシステムが原型になっています。とりわけ変化が激しい今の時代に、1人1人のジョブを明確に定義して契約する手法が適するのかどうか大きな疑問です。今の時代には柔軟性が決定的に重要であり、それがジョブ型の最大の問題点であると言っても過言ではありません。もちろん、職種や部門により限定的にジョブ型を導入するのは可能だと思いますが、全社一様に導入するのは困難ではないかと私は考えています。

日本の風土にマッチする「自営型」というワークスタイル

opinion_231005_02.pngそこで私はもう一つの選択肢があると考えています。それは「自営型」です。企業に雇用されているか否かに関わらず、半ば自営業のように、ある程度まとまった仕事をこなす働き方と定義しています。

フリーランスの中で対象としているのは、企業と業務委託で仕事を行ういわゆるインディペンデントコントラクターと呼ばれる人たちです。雇用されている労働者の中でも、ある程度のまとまった仕事を1人でこなす働き方を含めて自営型と呼んでいます。自営型のメリットは柔軟性です。個人の能力や目の前にある仕事によって、その範囲を縮小したり、拡大したりできます。

また、近年は「ワークエンゲージメント」という言葉が広がっています。没頭、熱意、献身の3要素からなるものです。このワークエンゲージメントの調査結果は2000年頃からいろいろな機関によって国際比較されています。どの調査結果でも日本は世界最低レベルです。ところが法政大学の石山先生などが行った研究では、フリーランスのワークエンゲージメントは欧米に遜色がないほど高いんですね。自分の裁量で仕事ができる、自分の力で有形無形の報酬が獲得できるところに魅力があると考えられます。

自営型のワークスタイルが解決する課題

政府は副業に対するスタンスを180度転換し、原則的に認めるようになっています。それに伴い、副業を解禁する企業が大幅に増えてきました。そして、副業は自営の方がフィットしやすいです。労務人事管理の関係で、他の会社で勤めると不都合が生じやすいからです。いわゆる70歳定年の話では、60歳以降は雇用だけでなく、業務委託も含めて良いと政府も述べています。これを追い風に自営型が急増するでしょう。

フリーランスについても、コロナ前は1000万人ぐらいでしたが、コロナ後は1.5倍の1500万人になっています。特に注目したいのは中小企業です。ご存知のように日本の企業全体の中で中小企業は99.7%を占め、働く人はほぼ7割を占めます。ですから極めてその存在感は大きいわけです。

中小企業に聞いてみると「ジョブ型は無理」と言われます。たとえば、小さな企業の中で、あなたは経理、あなたは人事、と割り振ることはむしろ少なく、経理総務、人事を一緒にやってもらうといったところが大半です。ですから、自営型なら取り入れられる可能性があります。実際昨年、Webで中小企業に調査を行いましたが、「正社員に取り入れられる可能性が高い働き方は何ですか」という設問に対して「自営型」の回答が33.8%でした。

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シニアの「誇り」を高める面でも自営型は優れている

また私は10年以上前から、褒めたり認めたりすることでどれだけモチベーションや自己効力感に良い効果があるか調査してきました。GPTWの「働きがいのある会社」調査の要素である「誇り」(※)についても、私は特にシニアについては、能力がどれだけ優れているかどうか、業績がどうかよりも、やはり人格的な尊敬を重視する傾向があると思います。その意味でも自営型は優れているのです。

※参考:2023年版 日本における「働きがいのある会社」シニアランキング 傾向解説

大阪にある機械メーカーは以前、社員を独立自営に切り替えました。そして、1人1人の生産高に応じた報酬が得られるシステムを取り入れたところ、「自分は歳だから、新しい機械を覚えられない」といっていた人があっという間に機械の使い方を覚えたそうです。それが自分の仕事となれば、能力の限界を超えられるのではないかと思います。また、ベンチャー企業は比較的若い人が社長になるケースが多いですが、若いとどうしても交渉上で不利を被りやすいので、自分の父親や母親ぐらいの人が補佐役につくことで、仕事がうまく回っている事例もあります。

従来のメンバーシップ型の中で、組織の論理に沿って定年を迎える働き方には限界があると思います。かといってジョブ型では十分な力を引き出すことができないのが現状です。これからは、雇用と自営が連続しているやり方が有効ではないかと考えています。

同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科教授 太田肇様 プロフィール

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兵庫県出身。同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科教授。経済学博士。日本における組織論の第一人者として著作のほか、マスコミでの発言、講演なども積極的にこなす。近刊『「自営型」で働く時代』(プレジデント社、2023年10月)のほか、『何もしないほうが得な日本』(PHP新書、2022年)、『日本人の承認欲求』(新潮新書、2022年)など著書約40冊。『プロフェッショナルと組織』で組織学会賞、『仕事人(しごとじん)と組織』で経営科学文献賞、『ベンチャー企業の「仕事」』で中小企業研究奨励賞本賞を受賞。

本記事は2023年9月時点の内容です。

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