2024年版「働きがいのある会社」ランキングベスト100から見る「働きがい」の傾向/若手の働き方トレンド「静かな退職」に対して企業はどう向き合うべきか
更新日 2024.03.252024.02.29レポート
Great Place To Work® Institute Japan(GPTW Japan)は認定・ランキング参加企業のアンケート結果を点数化し、一定レベルを超えた会社を、「働きがい認定企業」として月に1度発表しています。さらに、認定企業のうち特に働きがいの水準が高い上位100社を「働きがいのある会社」ランキング ベスト100として年に1度発表します。
●選出企業一覧はこちら
2024年版 ベスト100選出企業一覧
2024年2月8日に発表となった2024年版のランキングの結果を踏まえ、GPTW Japan代表の荒川が、ランキングの傾向解説を行うとともに、日本における「静かな退職」に関する最新の調査結果を発表いたしました。
※本記事は2024年版日本における「働きがいのある会社」ランキングベスト100記者発表会の抄録です。
※中規模部門12位に選出された株式会社タイミー 緒方仁暁氏との対談のレポートはこちら:トークセッション「働き方における価値観の多様化と働きがいを高める組織づくりとは」
大規模・中規模部門で働きがい低下、小規模は下げ止まり傾向
2年連続で「働きがいのある会社」調査を実施している企業の傾向から見てみましょう。前回(2023年版)の調査で同じ分析をした際は、大きな変化がない企業(変化が±2ポイント以内)が最も多かったです。今年に関しては、大規模部門(1000名以上)、中規模部門(100名から999名)でスコアの低下が見られました。その影響で「低下傾向」のボリュームが最も大きかったという状況です。
大規模部門で「低下傾向」だった企業は30.3%でした。ボリュームは「低下傾向」が最も大きく、「改善傾向」と「変化なし」がともに減少しています。
中規模部門は「低下傾向」が増加しています。「改善傾向」も増加していますが、わずかに「低下傾向」が上回っています。
小規模部門は、「低下傾向」と「変化なし」が減少して、「改善傾向」が増加しています。小規模部門の「改善傾向」の増加が顕著でした。昨年は「低下傾向」が非常に大きかったのですが、小規模部門の企業も下げ止まってきました。
「働きやすさ」「連帯感」に関する設問のスコア上昇
続いて設問ごとの変化を見ていきます。もっとも改善したスコアは「休暇の取りやすさ」でした。「柔軟な働き方の配慮」は多くの企業がかかげるテーマになっており、取り組みが進んでいることがうかがえます。そのほか改善しているのは、「特別なことを祝い合う」「楽しく働いている」「認められる機会がある」「思いやりのある会社」などです。
これはGPTWの調査のベースになっている全員型「働きがいのある会社」モデルに照らすと「連帯感」に当てはまる内容です。お互いが自分らしく職場で連帯感・一体感を感じながら働けるのは「働きがいのある会社」の重要な要素の一つ。コロナ禍でリモートワークが進む中、職場内のコミュニケーションをとることの難しさを多くの企業が感じていたように思います。そこから、非常に実効的な施策を各社が取ったり、もしくは対面も増えたりして、全体のスコア上昇につながったと分析しています。
※関連ページ:全員型「働きがいのある会社」モデルとは?
続いて、低下した設問です。経営・管理者層に関する設問で低下傾向が見られました。最も下がったのは「経営・管理者層が重要事項・変化を伝えている」です。実はこの設問はコロナ禍で、ぐっとスコアが上がった設問でした。緊急事態に陥り、多くの経営・管理者層が、ご自身の言葉で進むべき方向性を従業員に語りかけました。その反動もあり、コロナは落ち着くにつれ、昨年も低下傾向だったのですが、今年ついに最も下がった設問になりました。
基本的に、経営・管理者層から従業員にメッセージを伝える施策は、同じことをやっているだけだとスコアは下がります。やり方を常にアップデートしていくことが重要です。従業員は経営・管理者層の振る舞いを見ていますから、しっかりと捉えて、対策していきたいところです。
本記事には記載しきれなかった、2024年版「働きがいのある会社」調査から見えてきた最新の働きがいの状況について、データや事例とともにご紹介するレポートを公開しています。ダウンロードリンクはこちら:2024年版全体傾向レポート
1)GPTW「働きがいのある会社」調査について
2)2024年版 日本における「働きがいのある会社」ランキング ベスト 100
3)2024年版調査 参加企業の特徴
4)キャリア自律に関する取り組みの動向 ~働きがいのある企業の実態調査~
若手に広がる「静かな退職」とは何か?
ここからは「静かな退職」についての話を進めたいと思います。「静かな退職」は、2022年にアメリカでこの言葉を説明する動画が公開されたことで広まりました。「Quiet Quitting」という英語を日本語で直訳すると「静かな退職」になります。退職という言葉が入っていますが、実際は働いている状態を指しています。「最低限の言われたことをやります」という働き方を自ら選んでいる人は、仕事に意義を見出すことができません。この状態を「静かな退職」といいます。
似たような概念に「ぶら下がり社員」がありますが、これは構造的にぶら下がりになった人を指します。日本型雇用の慣行の中で、キャリアオーナーシップやグローバルに通用する専門性を自ら獲得する機会を得られなかった人たちが、結果的にぶら下がってしまっている状態です。
「静かな退職」は、アメリカでは若者に広がっています。日本でも自らそういう働き方を選んでいる若者が増えていると言われています。この「静かな退職」がどういうものなのか、どういうきっかけで始まったのか、どういう年代にこういう人たちがいるのかを調査するアンケートを実施しました。
「静かな退職」のきっかけは企業側にもある
アンケート結果において注目すべきは、「静かな退職」に該当する人の3割を若手が占めている点です。理由を見ていくと「プライベートの時間を確保できる」「仕事のプレッシャーがなくなって心身の健康を保てる」などの解答が目立ちました。日本においても「静かな退職」を選んで実行している人たちがいるのです。
なぜ従業員が「静かな退職」を選ぶのか。きっかけは、個人よりも企業側にあると思っています。プライベート重視の志向もありますが、「努力しても報われない(正当に評価されない・給与に反映されない)」ということをきっかけに「静かな退職」を始めた人も少なくないからです。頑張って働いてもインセンティブがないから、プライベートの時間を充実させようという方向に傾く若手が一定数います。企業としても、「静かな退職」が選ばれる前に、手を打つ必要があるでしょう。
「静かな退職」を選んでしまった人は、この先に何か企業の施策や、働き方に変化があったとしても、働き方を変えることは考えづらいです。そのため「静かな退職」を選ぶ前が重要です。働きやすさとやりがいの両方が揃って、「働きがいのある会社」だと我々は常々申し上げています。「ぬるま湯職場」や「しょんぼり職場」のところに「静かな退職」をする人たちが発生しているように感じています。やりがいを高めるための大事なポイントや、上司と部下の信頼関係や、職場への貢献をどのように高めるのかが重要になるでしょう。
Great Place to Work® Institute Japan 代表 荒川 陽子 プロフィール
※ 本記事は2024年2月時点の内容です。