【パネルディスカッション】製造業の「働きがい」の高め方 株式会社CKサンエツ×株式会社ヤッホーブルーイング
更新日 2022.09.222022.09.22対談
「働きがいのある会社」ランキングに連続選出されている2社の製造業の企業をお招きし、講演とパネルディスカッションを通じて、製造業の職場の実態に迫ります。
株式会社CKサンエツは複数の世界シェアナンバーワン製品を持つ企業です。働きがいのある会社」ランキングにおいて、6年連続で上位に入選しています。夜勤を削減したり、年間賞与額を固定したりなど、「徹底的な職場環境の改善」を通じて働きがいを高めています。(具体的なお取組み内容についてはこちらの記事をご参考下さい:株式会社CKサンエツ 導入・取組み事例)
株式会社ヤッホーブルーイングは、軽井沢に本社を置くクラフトビールメーカーです。同社も6年連続でベストカンパニーに選出されています。チームビルディングや部門間コミュニケーションの円滑化、社員の自発性を引き出す取り組みなどを展開しています。(具体的なお取組み内容についてはこちらの記事をご参考下さい:株式会社ヤッホーブルーイング 導入・取組み事例)
今回はGPTW代表の荒川 陽子がナビゲーターとなり、2社の働きがいの高め方を探ります。
※本記事は<GPTW事例セミナーVol.7>製造業の「働きがい」の高め方 ~「働きがいのある会社」ベスト100企業の取り組み~ の抄録です。
製造や生産管理部門のモチベーション向上・維持のために重要なことは?
荒川:本日は3つのテーマに沿ってお話していければと思います。一つめは「製造や生産管理部門のモチベーション向上・維持のために重要なことは?」です。目の前の製造目標の達成や作業効率アップに理念は役立たないという声もあります。やりがいやモチベーションなんて求めていないよという従業員もいる中で、どうやって働きがいを高めてこられましたか。
株式会社ヤッホーブルーイング 森田様(以下 森田様):目の前の製造目標の達成や作業効率アップに理念浸透が役立たないというのはその通りです。
何のために理念共感が必要なのか理解がないまま、浸透させようとしても難しいと思います。私たちは「なぜ理念浸透をするのか」「なぜ共感してほしいのか」を考えるところから始めました。私たちもまだ取り組みの途上であり、九州大学の古川名誉教授の『組織の心理学2011』を参考にしながら、モチベーションを高める方略を進めているところです。
荒川:釣谷社長は製造や生産管理部門のモチベーション向上・維持のために重要なことはどんなことだと思われますか。
株式会社CKサンエツ 釣谷様(以下 釣谷様):当社は「働きがいのある職場を提供する」と理念の中に入れています。働きがいのある職場とは、働けば働くほど社員さんが得をする職場です。社員が製造目標を達成すれば、それが採点表に反映され、報酬にも反映されます。だから、製造目標の達成や作業効率アップに自ら取り組むというわけです。
理念を浸透させるという点では、経営理念を社歌にしました。経営理念は覚えられないけれど、社歌は覚えたという社員さんもいます。働きがいを高めるために、会社は大きく3つのことができると考えています。それはお金であり、名誉や社会的地位、肩書きですね。あとは例えば、休暇が欲しいとか、カッコいい仕事がしたいとか、そうした要望にも応える工夫をしています。
荒川:評価と働きがいが仕組みとして非常に上手く組み込まれていること感じました。理念を歌にするというのはヤッホーブルーイングさんの場合は想像がついたのですが、CKサンエツさんも取り組まれていることは意外でした。いつ作られたのですか?
釣谷様:100周年を記念してつくりました。作詞は私が担当し、曲は名曲と言われているハイドンの皇帝賛歌を採用しました。歌詞は理念をそのまま当てはめたものです。社員さんたちが理念を覚えきれず、テストをしても書けない状態だったんですが、歌にして何回も歌えば覚えやすいだろうということで、100周年のタイミングで思い切って歌にしてしまったというのが経緯です。
株式会社ヤッホーブルーイング 長岡様(以下 長岡様):実は弊社でも最近社歌ができました。やはりみんなが楽しく経営理念を理解できることが大事だと思っていまして、そのプロジェクトから生まれたものです。
荒川:いいですね。令和の時代に社歌っていうのが。一体感を持って楽しく浸透させていくという意味で、すごく大事なのだと思いました。
部門間の連携、コミュニケーションをどう工夫しているか?
荒川:では次のテーマにいきたいと思います。「部門間の連携、コミュニケーションをどう工夫しているか?」です。これは多くの企業様から寄せられる質問で、規模が大きくなるほど本社と製造現場の距離が遠くなる問題があるわけですね。ヤッホーブルーイングさんは朝礼などコミュニケーションの施策があると伺いましたが、連携をスムーズにする取り組みはされていますか。
長岡様:人事系の機微な内容以外のものは、議事録の共有をフルオープンにしています。Googleワークプレイスというアプリを使い、議事録などをオンラインで同時編集しているのですが、その会議の冒頭のアイスブレイクで「私の好きな食べ物」とか「旅行で行った好きな場所」とかフリーの雑談を入れています。そこに対して、みんながコメントし合うなど、部門間をこえたコミュニケーションの場になっています。
また、テレビのモニターで各事業所の様子を映し出しているので、働いている様子を確認して連絡や相談をしていますね。これは各事業、各部門の様子がひと目でわかるようにするための工夫です。
荒川:なるほど。色々な情報を共有しているのですね。ただ、その情報を能動的に取りにいく姿勢も大切だと思います。
長岡様:そこが課題の一つです。情報が溢れているので取捨選択が必要になりつつあります。ただ、情報の取捨選択は本人に任せています。加えて、部門横断型のプロジェクトなどを通じて、リアルなコミュニケーションが展開されていますし、部門間連携が促進されることで一人ひとり新しい景色が見えてきているはずです。これが大事なのかなと思っています。
荒川:部門の枠組みをこえたプロジェクトが働きがいを高めているのですね。釣谷様はいかがでしょうか?
釣谷様:例えば、昼勤務と夜勤務で分かれているとコミュニケーションが分断されがちですが、当社は深夜勤務を減らす「夜勤レス」を始めたことで日中にコミュニケーションをとれるようになりました。組織と組織に横串を通すのであれば、横断型プロジェクトを立ち上げることが効果的であり、今も「不良品対策」などで実施しています。
異動についても柔軟で、営業をやりたいというならやれますし、開発をしたり、工場長をしたり、はたまた品質管理や生産管理など、渡り歩くことができます。上司と部下のコミュニケーションについては、毎月月例会というかたちで情報共有しています。社内掲示板や意見箱によるコミュニケーションも活発で、公開質問状というかたちで社員からの問いかけに対してしっかり回答し、共有することもあります。動画による共有も積極的で、安全カメラで生産現場を撮影し、職場で発生したトラブル事例を記録、編集して全社で共有しています。この動画も今では500本程度蓄積されています。
荒川:本当にあの手この手といった感じですね。本社と現場のコミュニケーションを円滑にする取り組みはありますか?
釣谷様:キーとなる社員はPHSを持っており、すぐに本社と無料で話せるようになっています。また、工場にカメラが100台程度設置されているので、それを通じて状況を把握することができますし、双方向で情報共有ができるようになっています。
荒川:何かあったときに、本社と現場がホットラインでつながる仕組みが整えられているのですね。
部門間のコンフリクトをどう乗り越える?
荒川:ここで、視聴者からの質問を紹介します。「部門間のコンフリクト、部門間の思いやりの欠如など、マイナスな状況があったときどう乗り越えますか?」です。
釣谷様:当社には、会社からの要望を踏まえた評価採点項目があります。その採点項目に「他部署への思いやり」を追加することを検討しますね。もちろん、事前にその項目を追加する理由や背景を伝えた上で実施します。そうすれば、思いやりを示せば示すほど評価され、報酬にもつながっていく。これは後輩への指導なども同じです。評価と紐づけることで、行動変容が起こると考えています。
長岡様:当社にもコンフリクトはあります。それをチームで乗り越えるために、チームビルディングをしていますし、コンフリクトから学ぶことを大事にしています。コンフリクトが起こるのは大抵、情報量が不足しているシーンだと思います。現場と離れているところでは全く異なるので、そこを埋めていく必要があります。例えば、現場発信ベースでは、「今現場ではこんな大変なことが起こっているよ」とか「すごく忙しい中、〇〇さんがたくさんビールを仕込みました」とか、そういう情報を積極的に発信して情報格差を埋めることを意識しています。
森田様:当社の文化として、「コンフリクトってあっちゃダメなんだっけ?」みたいな感覚があります。判断軸となる情報が足りないとき、情報の捉え方がずれたときにコンフリクトが起こるという考え方を社員に共有していますし、コンフリクトが起こったら自分たちで解決していくという考え方も共有しています。
荒川:素晴らしいですね。コンフリクトは会社の理念や考え方の浸透が進む一つの機会であると捉えているわけですね。釣谷様に質問がきております。視聴者のみなさんは採点表の仕組みに興味があるようです。
釣谷様:外部のコンサルタントさんと一緒に、職種別に求められる評価項目を整理して、採点表というものにしました。かなりフレキシブルなものになっており、工場長の意向で項目を追加することもできるし、配点を変更することもできます。ただし、その場合は事前に開示する義務があるんです。というのも、学校でも「明日、英語のテストをやる」と言っていたのに当日いきなり体育のテストをしたらみんな怒りますよね。準備もできないですし。それと同じで、採点表を変更する場合は、事前にみんなに共有しています。評価項目に関しては、改善された項目はいらなくなりますし、新しい課題が出てくればそれを追加します。新しい項目を追加することを躊躇しないことも大事にしていますね。
統制型の組織と風通しの良い組織の両立におけるマネジメントの工夫は?
荒川:ありがとうございます。残り時間もわずかとなりました。最後のテーマについて一言ずつコメントを頂戴できればと思います。最後のテーマは「統制型の組織と風通しの良い組織の両立におけるマネジメントの工夫は?」です。統制と風通しはある意味、二律背反するものだと思いますが、それらを取り持つマネジメントの工夫を教えてください。
長岡様:我々はチームで仕事をすることを大事にしているので、管理だけでは成り立たないんですね。自ら考えて仕事をするための工夫をしています。例えば、個人でアウトプットする裁量を与えたり、業務時間の2割を部門横断型プロジェクトに充てたり…それらを実現するためにあえて人員配置を厚めにしています。結果としてそれが生産性向上にもつながると信じているので「余白を持たせる」ことがすごく大事なマネジメントではないかなと考えています。
荒川:ありがとうございます。「余白」ですね、素晴らしい! 最後に釣谷様、お願いします。
釣谷様:まずひとつ、当社は無駄な階層を無くしました。社長の下には、社員と係長と管理職の3階層しかありません。部下のいない役職者をつくらない、階層を増やさないというのが大前提です。もう一つは、情報共有の工夫です。社員が直属の上司に提案をして、そこで却下されたら意見の通しようがなくなる、ということがないようにしています。身近な例では、迷ったら関係者を全てCC(Carbon Copy)に入れればいいのです。加えて、メーリングリストを作って情報共有すればいい。例えば、品質管理のメーリングリストなら、関係する人たちをすぐに加えられる仕組みをつくってそこでやりとりすればいいんです。その際、下からの改善提案は、どんどん押し上げるようにします。可能な限り公開質問状というかたちで共有する。これらを通じて、誰でも情報を拾えるようにする工夫が大事だと思います。
荒川:真似して実践しやすい取り組みを教えてくださり、ありがとうございます。本日は2社それぞれの個性が伺える取り組みを紹介することができて良かったです。今後の取り組みにも期待しております。
株式会社CKサンエツ 代表取締役社長 釣谷 宏行 様
株式会社ヤッホーブルーイング 人事総務 ユニットディレクター 長岡 知之 様
株式会社ヤッホーブルーイング 製造部門 ディレクター 森田 正文 様
※ 本内容は2022年8月時点の情報です。