【トークセッション】シニア社員の働きがいが高い組織の特徴
更新日 2022.11.022022.11.02対談
Great Place to Work® Institute Japan(GPTWジャパン)は、「働きがい認定企業」(2020年7月~2021年9月調査実施)の中から、特にシニア(管理職を除く55歳以上)の働きがいに優れた企業を各企業規模部門別に選出しました。そのオンライン発表会にて、株式会社ディスコのサポート本部人財部長 渡辺肇人氏と株式会社脳活性総合研究所代表の太田 芳徳氏、GPTW代表の荒川陽子のトークセッションを開催しました。当日の内容をダイジェストでお届けします。
※本記事は2022年版日本における「働きがいのある会社」シニアランキングオンライン発表会の抄録です。
目次
働きがい先進企業も「認知機能低下」の対策はこれから
荒川 ディスコ様からはシニアだけではなく全ての方が、働く人のやりがいを高めるために、さまざまな角度から施策をしているお話をいただきました。一方で、太田さんからは「フェア」とともに「ケア」が大事であるというお話をいただきました。太田さんのおっしゃる脳の健康に着目することはあまりなかったので非常に新鮮に感じました。まずはお二人から講演の感想をうかがいたいのですが、渡辺さまは太田さんのお話を聞いてどんなことを思われましたか?
- ・2022年版 シニアランキングにて大規模部門1位を獲得した株式会社ディスコ 渡辺肇人氏のご講演抄録はこちら
- ・株式会社脳活性総合研究所 太田芳徳氏による「シニア人材の活躍に重要な脳と体の健康の取り組み」の講演抄録はこちら
渡辺 太田さんが提唱されているメディカルサイエンス的なアプローチに関しては、当社もまだ実現できていません。ライフタイムのワークライフバランスという概念を元に、認知機能が低下してからではなく、そうなる前に手を打てるようにしたいと思いました。
太田 そうですね。これまでは若者のマネジメントでのように、それこそ「若いから徹夜しても大丈夫」と健康面にそこまで人事が配慮しなくても、という感じだったと思いますが、シニア人材では、それがなかなか通じなくなります。管理職はそんなに体を使わなくなるんですけれど、次第に認知機能などの問題が出てくるでしょう。悩ましいですよね。
荒川 これから5年、10年でスポットライトが当たるだろうなと思いながら私も太田さんのお話をうかがっていました。
シニアが健康に働くために会社として出来ること
荒川 では続いてのテーマに移りたいと思います。「シニアが健康に働くために会社として出来ること」です。全ての従業員がイキイキと働くには、シニアが心身ともに健康に働ける環境を整備することが重要です。介護への支援やシニア社員自身の健康面へのフォローの取り組みはありますか?
渡辺 シニアの働きがいを高めるという点では、個別の人事制度や人事施策というより、社員が「自由に楽しく仕事をしよう」「全力で追求しよう」という姿勢が文化になっていることが大きいです。我々も過去、属性の括りで施策をしたこともありますが、今は個人Willという個人別に採算を可視化し、「仕事の選択」と「それに伴う結果責任」を同時に従業員一人ひとりに委譲する制度により、各人が必要なサービスや支援を複数の選択肢から自分で選び、購入して利用するので、満足度や納得度も高いのかなと思います。やはりシニアといっても家族や社会との関わり方、仕事へのモチベーション、趣味や副業など多様ですから主体的に選択できる仕組みが機能すると考えています。
シニア社員の知見を全社に還元する
荒川 シニア向けの介護や健康面の情報発信などされていますか?
渡辺 情報発信の例でいけば、シニア自身が健康管理やシニアとしての働き方などの情報を発信していますし、65歳以上のベテラン社員がマネープランなどについて実体験を通じた発信をしていますね。それに基づき、人財部向けにセミナーをしてもらうこともあります。シニアの働き方という点でも、一人ひとりと対話し、働き方や処遇をカスタマイズして展開しているところです。
荒川 YouTubeのような社内動画配信サイトで発信されて、視聴されるとWillを獲得できるというお話、非常にユニークでした。
渡辺 私も人財部長としていろんなメッセージを発信していますが、社内セミナーやYouTubeをしてもですね、視聴者が集まらなければ誰もWillを払ってくれないのです。だから、面白い話、ためになる話をする人に、どんどんWillが集まるという仕組みになっています。
超高齢化社会が到来し、認知症予防の啓発が急がれる
荒川 太田さんはシニアの働く環境というテーマで、どのようなことをお感じになりましたか。
太田 やはり多くの企業で介護離職が進んでいると感じます。「自分の親は大丈夫だろう」と思っていたのに認知症になってしまい、その両親の介護のために離職をせざるを得ない、となってしまっています。また、認知症の予防には脳トレがよいと勘違いしている人もいて、間違った対策に取り組んでいる方も多くお見かけします。そういう背景から健保や人事から研修などご相談いただくことが増えてきました。
最近の実感として、親の介護について知ると称しながらも、本人も自分ごととして研修内容を聞くことでスムーズに受けいられているかなと。こうした知識研修や併せて脳の健康チェック会が増えそうだなと現場で見ていて感じます。
荒川 大手企業からそうした取り組みが進んでいるのかなと思いますが、中小企業からの引き合いはいかがですか?
太田 まだ大手企業が中心ですね。というのもやはり介護離職者も多いですし、同じような悩みを抱えている方がいらっしゃるので、みなさんが集まった場でお話をする機会をいただくことが多いです。
シニアのモチベーションを維持し高めるためには?
荒川 ありがとうございます。健康に働き続けるための環境整備をする会社はたくさんありますが、ディスコさんのように環境を用意するだけではなく、自分で選べるようにすることが非常に重要なんだなと感じました。では最後のテーマです。「シニアのモチベーションを維持し高めるためには」。多くの企業が課題として感じていることだと思います。改めて、渡辺さんはこのテーマについてどうお考えですか。
渡辺 やっぱり、当社においてはモチベーション高く働くためには経営理念であるDISCO VALUESへの共感と実践、社内通貨Willの仕組みがきちんと回っていることが重要だと思います。それともう一つ申し上げるとすれば、仕事や組織の効率化を追求すると、仕事は分業化されていき、仕事の意味や価値を一人ひとりが実感できずに、機械化してしまうことがあると思います。しかし、シニアはディスコがまだ小さい会社だったころからがむしゃらに何でもチャレンジしてきた存在です。そうした働く姿勢や経験はとても貴重だと思います。
便利なものがなんでも容易に手に入る環境下で、自分で考えて動くよりも外部資源やツールに頼りがちとなり、自分自身が無価値になってしまうリスクに気づいていない若者もいると思います。そういう人たちに示唆を与える存在なので、シニアがそこに存在意義を感じて、働きがいにもつながってくれればと思っています。
シニアの働きがいを維持するために「ケア」が欠かせない
太田 モチベーションを高めるためには、マズローの欲求5段階説の一番根っこの安心・安全があるところが大前提だと思います。シニアはそこに不安要素があるし、私自身もそうなんです。パッと人の名前が浮かばなくて「大丈夫かな…」と思ったりする。ですので、定期的に健康診断をするのと同じように、認知機能をチェックするだけでも不安が和らぐし、頑張れるのではないかと思いますね。
荒川 たしかに客観的なチェックをすることで、自分の立ち位置を確認することは非常に重要ですね。脳の働きとモチベーションの関係性についても研究されているのでしょうか。
太田 我々は脳の基礎的な力をはかっているので、その上に乗っているアプリケーションとしてのモチベーションや、それをどう使うかというのは今のところ研究対象外です。しかしながら、やはり生き物としての機能が十分にあってこその「活躍」だと思うので、健康診断だけではなく、脳の健康チェックも取り入れていかないと、日本は苦しくなるんじゃないかなと感じているところです。
荒川 働くシニアが増えていく中で、最大限に力を発揮してもらうためにはやっぱりケアが必要だということですね。
渡辺 私もシニアのケアが重要になるというお話は非常に興味深かったです。
荒川 若いころは知識やスキルを磨くことに注力しますが、それが潤沢になっていくと、今度は健やかに、ヘルシーに働くことが課題になるわけですね。それがプライドを維持することにもつながっていると思います。これにてトークセッションは終わりです。渡辺さん、太田さん、ありがとうございました!