調査結果を「出して終わり」にしないために~エンゲージメント調査結果を組織の力に変える『納得感醸成』のポイント~
更新日 2025.08.282025.08.28コラム

多くの企業がエンゲージメント調査を実施している今、調査結果をどう活用するかが組織の未来を左右する分岐点となっています。しかし、調査結果を組織改善につなげられている企業は決して多くありません。調査を行うことが目的となり、「出して終わり」の状態に陥っているケースが非常に多く見受けられます。
その背景にある共通要因として、社内の「納得感の醸成」ができていないことが挙げられます。本コラムでは、エンゲージメント調査後の組織変革を成功に導くための実践的なポイントを、失敗パターンも交えてご紹介します。
目次
なぜ「納得感醸成」が重要なのか?
調査は、大きく調査準備、実行、結果活用というフェーズに分かれます。この結果活用フェーズにおいては、経営層の強いコミットメントが不可欠です。
経営層自身が結果に納得していないと、調査結果の解釈やメッセージ性が薄れ、必要な変革を推進する原動力が弱まります。納得感がなければ、どんなに良い施策でも「やらされ感」が蔓延し、調査疲れや「言っても無駄」という諦めや不信感を生む恐れがあります。
エンゲージメント調査結果の納得感の欠如は、調査自体を形骸化させ、組織の信頼関係を損ない、最終的にはエンゲージメント向上という本来の目的から遠ざかる結果を招くリスクがあります。
「納得感」醸成が上手くいかない組織の失敗パターン
「納得感」醸成が上手くいっていない組織では、以下に代表されるような、象徴的ないくつかの失敗パターンが見られます。
①経営層が調査結果に対して表面的な確認のみで終わっている
- 「要素別で特に高かった設問は△△」「前年比で○pt上がった」という事実確認のみとなっている
- 自分たちの設定した定量目標が達成できたか否かだけを気にしている(「働きがいのある会社調査」でいえば、働きがい認定を取得できたかどうか)
②結果共有が一方通行になっている
- 全社発表1回のみで、その場でも質問を受け付ける機会がない
- 部会や課会単位に結果がおろされておらず、小単位での対話機会がない
③改善施策の検討・推進に人事しか関われていない
- 各部門の当事者意識が薄く、「人事の仕事」として認識されている
- 「人事」のみが調査結果の詳細を把握し、アクションプランを考えている
④結果の背景や要因分析が不十分である
- なぜ、その結果になったのかの深掘り(背景分析・要因仮説)がない
- どうやったら、その課題が改善されていくのかのイメージが湧かない
いかがでしょうか。
もし、上記の中で組織の中で当てはまる失敗パターンがあるようでしたら、効果的なエンゲージメント調査が実施出来ているとは言い難い状況です。放置することなく、改善のための打ち手を講じていく必要があります。
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経営層の納得感を生みだす「翻訳」と「ストーリー構築」
「納得感醸成」の上では、「経営層」と「従業員全体」へ働きかける必要がありますが、まずは「経営層」に対する納得感をどう得られるかが重要です。その経営層の受け止めが、全社への発信にも大きく影響します。
経営層を巻き込むインパクトある「翻訳」
経営層が表面的な結果確認で終わっている場合、要因として経営層のそもそものコミットメントが弱いがゆえに、調査に対する深堀りが行われないという状況が考えられます。これは経営層としての問題であり、エンゲージメント調査をやると決めた以上、その目的を明確にし、必然性を持った関わりをする必要があります。
しかし、もう1つの側面として、調査を主導する人事目線での問題でもあり、効果的な報告が出来ていないことも大きな要因です。エンゲージメント調査の数値を経営層に報告する際は、単なる満足度スコアではなく、経営を巻き込むことのできるインパクトある「翻訳」が不可欠です。
インパクトを伝えるポイントは大きく2つです。
1つはビジネスインパクトにどうつながっているか、という関連性を見出して報告することです。具体的には「エンゲージメントが離職率にどうつながっていると言えるか」「組織ごとの生産性とどれくらい相関があると考えられるか」「(エンゲージメントスコアが高く、対外的なアピールにもつながっている場合)採用広報には、どれくらい好影響をもたらしているか」「(人自身がサービスの要になっている場合)エンゲージメント調査と顧客の満足度評価はどうつながっているのか」などつながりを示した報告が出来ると、経営層の高い納得感につながります。もちろん、こうしたインパクトとのつながりを示すのは非常にハードルが高く、実際には複合的な要因が絡んでおり、あくまで仮説レベルに留まるのが一般的です。しかし、そのつながりを示そうとするプロセスで深い考察が生まれ、結果の背景や要因分析は深まり、経営層からも主体的な考察に対する質問が生まれます。
もう1つは、調査を実施している他社と相対的に比較してどうか、という視点です。高い水準の他社ベンチマークとの比較、同規模企業との相対評価、業界内での位置づけ、グローバル基準で比較したときの位置づけといった視点となります。相対的な立ち位置が把握できることで、満足することなく、より高い水準を目指そうという意欲を引き出すことができます。
説得力のある「ストーリー構築」
経営層の納得を得るためには、数値という最終結果とそこに至るプロセスのエピソードを組み合わせた「ストーリー」の構築も効果的です。
調査結果から原因を読み解き、その解決策を提示し、将来のビジョンを期待効果として伝えてゆくことで、調査を起点としたストーリーが構築されていきます。このストーリーは、経営層の納得感を得るためにはもちろんですが、実際に結果が良かった際には社内外に共有する時に大いに役立ちます。「こういう現状認識を持ち、それに対してどのような打ち手を実施し、改善につながったか」というストーリーは振り返った時には強い説得力を持ち、再現性ある知恵になります。
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全社への結果共有におけるポイント
「経営層」の納得感を得たら、その次に全社に結果を共有していきます。
適切な発信タイミングと段階的なコミュニケーション設計
エンゲージメント調査結果の全社展開においても、納得感を高めるポイントがあります。情報の伝達順序を適切にすることと、各階層に応じたメッセージのカスタマイズが重要です。
伝達順序としては、基本的にはトップダウンでおろしていくことが重要ですが、ある程度のスピード感を持って、各層に対してアプローチをしていきます。そして各層に応じて、その目線に寄り添ってメッセージングを変えていく必要があります。
もちろん組織規模ごとにスピード感や粒度は異なりますが、一般的には層ごとに以下のようなスピード感で展開が出来ることが理想的です。
- 経営層(Week 1-2):戦略的観点からの結果分析と改善方針の決定
- 管理職層(Week 3-4):部門別データの共有と現場での対話準備
- 一般社員(Week 5-6):全体結果の共有と具体的なアクションプランの提示
受け止めやすい結果の「伝え方」
調査結果が受け止めやすいかどうかは、メッセージの構成と表現方法に大きく依存します。どの立場であったとしても、伝える際には以下のようなポイントを押さえて伝えると、メッセージが効果的に伝わります。
効果的なアプローチ
- ポジティブな面から伝える
- 具体的な改善アクションとセット
- 背景・要因の丁寧な説明
- 双方向の対話機会を設定
特に、全社への結果発信の際に、ポジティブな面から伝える際には、高いスコアを企業文化の証明として積極的に伝えることはもちろん、部署別の差異も「重点的に改善すべき明確な指針」として建設的に解釈することが求められます。
一方で、避けるべきアプローチがあります。とりわけ日本では、課題に目が焦点されやすく、問題点が列挙され、メッセージが伝わっていないケースが多く見受けられます。
避けるべきアプローチ
- 問題点の列挙から開始
- 抽象的な改善目標のみ掲示
- 一方的な結果共有
- 他社との単純比較
結果がどうあれ、メッセージ次第では大きな納得感の土台をつくり、信頼を高めることにもつなげることができます。
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調査継続の中で直面する課題
長期目線で見た時には、調査は継続していくことで取得できるデータも増え、伝えられるメッセージは増えていきますが、一方で、毎年定点観測で行っている調査を形骸化させずに、納得感が得られるかは、大きい課題となります。従業員に毎年フィードバックしても、結果の変化が分かりやすく見られない場合、伝えるメッセージがマンネリ化し、調査を行う意味を見失ってしまったという声はよく耳にします。
こうした状況に陥らないためには、次回調査への期待値管理やメッセージングが不可欠です。多様な発信機会や対話機会が設定されているかが大きなポイントとなります。
管理職向けの発信・対話機会の例
- 1on1における調査結果活用研修
- 現場の声の拾い上げスキル向上
- フィードバック手法の習得
全社向けの発信・対話機会の例
- 改善事例の社内表彰制度
- ベストプラクティスの横展開
- 成功要因の分析と共有
- 失敗事例からの学習機会創出
- 他部門との相互学習プログラム
- 外部ベンチマークとの比較学習
こうした対話機会を丁寧に続けていくことで、調査の納得感が失われること、調査目的の形骸化を防いでいくことが基本の取り組みとなります。
しかし、更に高いレベルで実践している企業では、その調査を行うこと自体を会社の「文化」に紐づいていた目的とし、形骸化を防いでいるケースがあります。このレベルの意味付けまで行うことが出来ると、調査回答時に従業員の前のめりなコミットメントを得ることができます。
スコア悪化時の対応
また、調査を継続してゆくときには、エンゲージメントのスコアが悪化することも避けられません。その時こそ、冷静な分析をもって、悪化の真因を体系的に特定していくことが肝要です。
分析においても、いくつかの切り口から分析をして、解釈を行っていく必要があります。特に調査を継続している場合、経年での変化に振り回されがちですが、一喜一憂することなく、継続的や根本的な問題にも着目することが大切です。
分析軸の例
- 時間軸による分類(継続的悪化・一時的変動か)
- 要因が生まれている大元(外部環境要因・内部組織要因・個人レベル要因)
- 影響の範囲(全体的悪化・部分的悪化・特定層の悪化)
こうした分析の中で悪化した真因を掴むことが出来れば、ピンチは納得感を高めるチャンスになります。一番勿体ないのは、スコアが下がった時点で調査をやめてしまうケースです。「良い結果しか見せたくない」という姿勢が社員に伝わることは、会社の誠実さに対する評価が下がるリスクを孕んでおり、避ける必要があります。
企業の参考事例
ここまで納得感を高めるためのポイントをお伝えしてきました。
実際に働きがいのある会社調査を行っているお客様では、どのように納得感を高めるコミュニケーションを行っているのか、いくつか例をご紹介します。
【参考例】人的資本開示になぜGPTWを使うのか? TIS株式会社の事例
「働きがい満足度」を中期経営計画の重要項目として位置づけ、統合報告書での積極的な開示を通じて社内外でも伝わる、インパクトある報告を行っています。コーポレートサイト、ESGデータブック、統合報告書、中期経営計画等で一貫した指標を示し、社内の温度感を高める働きかけを行っています。また、スコア悪化の可能性は事前に想定し、どう向き合っていくかを予め示しています。
【参考例】調査を用いて自社の働きがいを仮説検証し ウェザーニューズの「3つの文化」を大切にする
エンゲージメント調査を単発のイベントではなく、継続的な組織改善のツールとして活用。「働きがいのある会社」づくりを掲げ、調査に参加していることを通じて、それが自社のカルチャーを体現するものとして認知されています。社長自らがエンゲージメント調査結果を前向きに解釈し、建設的なメッセージ発信と丁寧な説明を行うことで、従業員の納得感醸成に成功しています。
【参考例】あえて"認定ならず"をプレスリリースでPR ユニオンテック株式会社の事例
「働きがいのある」会社調査の結果に対して、建設的なメッセージ発信を大切にされています。「働きがいのある会社認定」を取得できなかった結果を、むしろ「伸びしろ」として前向きに捉え、積極的に社外発信を行っています。その中で実際に良くなった箇所をピックアップして、次なる希望を示しています。
おわりに:納得感醸成で調査結果を組織の力に
エンゲージメント調査の価値は、調査結果を組織全体が納得感を持って受け止め、継続的な改善に活用できることにあります。
何より重要なのは、調査結果を「評価の材料」として終わらせるのではなく、組織全体の学習と成長の「出発点」として活用することです。納得感のある改善プロセスを通じて、エンゲージメント調査を組織の継続的な進化を支える重要なツールとして育ててください。
本記事では「納得感醸成」という切り口に絞って、ポイントを紹介しました。
構造やポイントが分かっても、実行しなければ成果につながりません。まずは自社の現状を振り返り、チェックしてみてください。その上で、「これは良いな、取り入れるべきだな」と感じる点を一つずつ取り入れていくことから始めていきましょう。
なお、GPTWでは、「働きがいのある会社」調査を通じて、どういう改善の一歩目を行っていくかの支援を行っています。カルチャーコーチングという経営層向けのディスカッションのセッションでは、調査を通じて「どういうデータに着目していくべきか」はもちろん、貴社にあった型を見極めてどういう一歩目を行っていけば良いかのご提案を行います。
その提案においては、他社の豊富な実例を踏まえてご紹介をさせていただきますので、その会社に最もあった形での進め方やメッセージに関する参考になります。
興味がある方は、ぜひお問合せください。
調査結果が活用できていない方やアクション策定まで支援してほしい方へ
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