360度評価(多面評価)とは?メリットやマネジメント方法・失敗例と対策を解説

更新日 2024.12.242024.12.24コラム

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近年、多くの企業がこれまでの年功序列型や上司一人による評価制度から脱却し、多面的な視点を取り入れた「360度評価(多面評価)」の導入を進めています。これは、上司だけでなく、同僚や部下、さらには本人による自己評価を組み合わせることで、公平性や納得感を高め、従業員の成長を促すための手法です。労働環境の変化や働き方の柔軟化、さらには成果主義へのシフトを背景として、360度評価は単なる人事評価制度ではなく、人材育成や組織全体の活性化を目指す重要な取り組みとして注目されています。

ここでは、360度評価の目的や導入の背景、メリット・デメリット、よくある失敗例とその対策、さらにはスムーズな運用方法やマネジメントのポイント、評価項目例、よくある質問への対応策などを総合的に解説します。これらの情報をもとに、組織としていかに360度評価を有効活用し、人材の成長と組織力強化を実現できるのかについて考えていきましょう。

360度評価の目的と導入の背景

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360度評価を効果的な人材育成手法として活用する企業が増えています。まずは360度評価の基本的な意味や導入の目的などについて解説します。

360度評価とは?その基本的な意味

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360度評価は従業員を評価する際に、上司・部下・同僚など複数人の評価者からの意見を総合して評価を行う人材育成手法です。多面評価と呼ばれることもあり、組織の多様性や働き方の変化、技術の進化を背景に多くの企業で採用が進んでいます。

従来の人事評価では、主に上司が部下を評価するという一方向的な仕組みが一般的でした。この従来の人事評価だけでは、個人の能力や行動の把握が難しい側面があります。しかし、360度評価を行うことよって、上司が部下を評価するだけの一方向的な評価制度では見落とされがちな側面を浮き彫りにすることが可能です。

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このような特徴から、360度評価は従来の評価制度を補完する新たな人事評価の方法として普及しています。従業員のパフォーマンスをより正確に見据え、企業全体の成長を促進するための人材育成手法として、360度評価は今後ますます重要な役割を果たしていくことでしょう。

360度評価導入の目的

360度評価の導入の目的は、大きく分けて人材育成・組織開発に活用できることと、、人材育成やモチベーション向上を目指すことです。上司のみが行う評価制度の信頼性が欠けるため、360度評価を導入するというのは、よく聞かれる目的です。また、評価者が変わることでこれまでの評価基準では埋もれていたハイパフォーマーを発見できるというメリットもあり、人材育成に繋げることが可能です。

人材育成・組織開発への活用

360度評価は、上司や同僚、部下など多角的な観点から受ける仕組みとして、人材育成や組織開発において高い親和性を持っています。評価ではなく人材育成として個人の成長を目的とする場合、360度評価によるフィードバックは強みや課題を解決し、自己認識を深める機会に繋がります。これにより、自己改善の動機づけやリーダーシップ、コミュニケーションスキルの向上が期待できるでしょう。

また、組織全体としてお互いをより深く知り合える関係性を築けることで、安心して意見を共有できる環境が整います。その結果、個人と組織が共に成長する環境を構築できるのです。

人材育成やモチベーション向上を目指す

360度評価は、人材育成やモチベーション向上を目的に導入されることがあります。対象者は、複数の観点からの評価をもとに、これまでの評価制度の基準とは異なる観点から評価を受けることが可能です。これによって、今まで埋もれていたハイパフォーマーを発掘できる可能性が高まります。また、これまでとは異なる強みを評価し、人材育成計画に活かすことも可能です。

さらに、360度評価では対象者は上司・同僚・部下というように複数の観点から評価を受けることで、自分の強みや弱みをさまざまな角度から確認できます。特に、管理職やマネージャーなど上司の立場にいる人は、周りからどのように見られているのかを知り、自身のマネジメントやリーダーシップに活かすことが可能です。評価を通じて、上司の改善点の発見に繋がるというのも、360度評価の大きなメリットと言えるでしょう。

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360度評価導入の背景と新しい働き方

近年、多様な価値観や働き方が広がる中で、個人と組織の成長を両立させるための仕組みが求められています。その中で注目されているのが、360度評価の導入です。評価を超えて信頼関係の強化や組織文化の向上にも取り組むため、変化する働き方に適した人材育成として活用されています。

以下に、日本企業の人事制度の変遷や新しい働き方について解説します。

日本企業の人事評価制度が成果主義に遷移

1990年代以前は、多くの企業は勤続年数に応じて評価を行う年功序列型の人事評価制度を採用していました。年功序列型の評価制度の場合、長く勤めている従業員に対して、得た経験やスキルがあるという前提で評価を与える一方、勤続年数という要素が大きすぎるため、個人の実力や成果を正しく評価することが難しいという課題がありました。

日本企業は、1990年代前半のバブル崩壊をきっかけに、アメリカの人事制度を参考にした「成果主義」へと徐々に移行していきます。成果主義に基づく人事評価制度では、個人の仕事の成果を評価に組み込むことで、従業員のモチベーションが上がり、雇用の安定が期待できます。人事白書調査レポート2023によれば、7割の企業が成果主義の評価制度を取り入れており、年功序列主義は減少していることが分かります。(※)

※参考:日本の人事部「評価・報酬は能力主義、成果主義、職務主義が約7割と主流。年功主義は2022年から2.9ポイント減少」

柔軟性が高い働き方を導入する企業が増えている

新型コロナウイルス感染拡大や働き方改革を背景に、多くの企業が求めているのがリモートワークやフレックスタイム制といった柔軟性の高い働き方の導入です。一方、こうした働き方は人事評価制度にネガティブな影響をもたらすことがあります。

例えば、リモートワークでは上司と直接話す機会が減少します。コミュニケーションが減るため、評価される側が評価基準を理解しづらいといった課題も見受けられます。業務の進捗状況や成果も見えづらいため、特定の業務における貢献度が過小評価されるリスクもあるでしょう。柔軟な働き方では、上司・部下の対面での業務が減少し、評価者が従業員の日々の働きぶりや成果を十分に把握できないという問題点もあるのです。

こうした状況下において、これまでの一面的な評価ではなく、360度評価のように複数の評価者が多角的に評価する手法が求められるようになりました。360度評価を導入することで、従業員の信頼を得ながら、公平で多面的な評価が実現します。

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360度評価の導入で企業が得られるメリット

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360度評価において部下が上司を評価することでマネジメント側の育成を目的に導入されるケースもあります。ここでは、360度評価によって企業が得られる具体的なメリットと効果について解説します。

客観的な評価の実現

従来の評価方法では、上司による一方的な判断が評価の大部分を占め、そこには評価者の主観や好みが反映されやすいという課題がありました。その結果、被評価者は自分のパフォーマンスが正確に評価されていないと感じ、不満や不信感を抱くことも少なくありません。一方、360度評価は、上司だけでなく、同僚や部下、さらには自己評価まで組み合わせ、多面的な視点から被評価者をとらえます。これにより特定の評価者の偏りが薄まり、より公正で客観的な評価が可能になります。

このような客観性の高い評価は、従業員にとって結果を納得しやすく、改善点や強みを明確に把握するきっかけとなるため、モチベーション向上に繋がります。また、企業側にとっても、従業員の適性や潜在能力を正確に見極めやすくなり、適材適所な人材配置や効果的な育成計画を立てる助けとなります。その結果、組織全体の生産性やパフォーマンスが高まり、持続的な成長を実現することができるのです。

被評価者の強みや改善点の発見

360度評価では、複数の視点からフィードバックを受けることで、被評価者自身が自分の強みや改善すべき点を把握することができます。例えば、対象者は上司だけではなく同僚や部下からの意見を聞くことで、上司側の視点では見えていなかった対象者の長所や短所に気付ける可能性があります。360度評価をもとに、育成計画を改善することも可能です。

また、360度評価には自己評価も含まれます。自身が行った評価と、他者からの評価を比較・分析することで、自己認識と実際のパフォーマンスとのギャップを発見しやすくなるでしょう。例えば、上司である本人はリーダーシップを発揮していると思っていても、部下や同僚からの評価によれば、メンバーには思っているほど伝わっていないということもあります。周りからの客観的な評価が集まることで正しい自己認識に繋がり、考え方や行動の改善に繋げることが可能です。

コミュニケーションの活性化と職場エンゲージメントの強化

社内でのコミュニケーション不足は、多くの企業が抱える課題です。コミュニケーションが円滑に行われない場合、職場の雰囲気に悪影響を及ぼすだけでなく、情報共有の不足や生産性の低下を引き起こす可能性があります。

特に、上司と部下のコミュニケーションは職場で難しいものの一つです。上司からすれば、マネジメントする部下が多いと1対1で話す時間を取るのが難しくなります。部下は、忙しそうな上司に話しかけづらいということもあるでしょう。

360度評価では、評価の一環として面談を実施し、フィードバックを行う機会を設けます。これにより、上司と部下の間のコミュニケーションを活性化するツールとしても機能します。評価、面談、フィードバックというプロセスを通じて、職場内の信頼関係が強化され、職場全体のエンゲージメントが向上します。

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従業員の人事評価に対する納得感

360度評価による多面的なフィードバックは、従業員が自分の評価結果に対して納得感を得る上で重要です。上司一人だけの評価ではなく、同僚や部下、さらには自分自身の自己評価が加わり、複数の評価者が同じ意見を共有することで、評価がより公平であると感じられるためです。

例えば「会議中の発言が少ない」という点について、複数の評価者が同じ意見を持っている場合、従業員はそのフィードバックを受け入れやすくなります。その結果、改善に向けた具体的な行動計画を立てることができます。

評価における納得感が従業員の課題改善への意欲を高めるとともに、組織に対する信頼感を強化する効果も期待されます。その結果、企業全体の成長や働きがいの向上にも繋がります。

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360度評価のデメリット

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360度評価は、多面的な視点から従業員の能力や行動を把握できる手法です。しかし、メリットが多い反面、運用面や心理的な側面でのデメリットも存在します。以下では、具体的なデメリットについて詳しく解説します。

運用コストや時間的コストの発生

360度評価は通常の人事評価と比較して、実施にかかる労力が大きくなります。多くの従業員が評価プロセスに参加するため、準備から集計まで多大な時間とリソースを必要とします。

例えば、フィードバックシートの作成や配布、回収、集計といった一連のプロセスは、担当者にとって大きな負担です。さらに、従業員全体が評価作業に時間を割くことで、通常の業務にも影響が出る可能性があります。

対策としては、オンライン評価ツールを活用し、プロセスを効率化することが挙げられます。また、必要最低限の質問項目を設定し、評価時間の短縮を図ることが効果的です。

主観的な評価に偏る可能性

360度評価では、評価者の主観が評価に影響を与えるリスクがあります。評価者が対象者に対して抱く感情や個人的な経験が評価結果に反映されてしまうことがあるからです。

具体的には、評価者が対象者の直近の行動やパフォーマンスに強く影響される「近接効果」が挙げられます。例えば、直近で良い営業成績を収めた対象者は、それ以前の勤務態度に問題があったとしてもポジティブな評価を得やすくなります。評価期間内に良い成果を出していた従業員が、直近で病気による欠席があった場合、総合的に評価が下がりやすくなります。また、匿名での評価であっても、評価者が人間関係の悪化を恐れて率直な意見を控えるケースも考えられます。

対策として、評価の目的を事前に十分に説明し、客観的な評価基準を設定することが重要です。また、評価者に対するトレーニングを実施し、評価スキルの向上を図ることができます。

忖度により正当な評価をしづらい

評価者と評価対象者の関係性が近い場合、評価者が忖度して正当な評価をしにくくなる場合があります。例えば、部下が直属の上司を評価するケースでは、厳しい評価を避けることで関係性を保とうとする心理が働く可能性があるでしょう。他にも、仲の良いチームメンバー同士の評価では、厳しい評価を下すことに抵抗を覚え、評価が甘くなるかもしれません。

このような問題の対策として、評価者に対して事前に研修を実施し、360度評価の目的や重要性を正確に伝えることが挙げられます。評価基準を明確化し、評価者の意識改革を促すことで、公平性を担保しやすくなるでしょう。

評価を気にして指導が甘くなる

360度評価は、従業員同士の関係性や職場の雰囲気に影響を与える可能性があります。例えば、上司が評価を意識しすぎることで、部下への指導が甘くなり、本来の役割を果たせなくなるリスクがあります。また、多方面からの評価がプレッシャーとなり、ストレスを感じる従業員が出るかもしれません。

対策として、評価プロセスが業務に与える影響を最小限に抑える工夫が求められます。例えば、フィードバックを建設的かつ前向きな内容にすることで、従業員のストレス軽減やモチベーション向上に繋げることが可能です。

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360度評価の5つの失敗例と対策

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360度評価は多面的な視点から従業員の能力や行動を把握できる優れた手法であるものの、運用を誤ると期待した効果が得られず、かえって問題を引き起こす場合があります。以下では、よくある5つの失敗例とその対策について解説します。

1.費用対効果が得られず短期間でやめてしまった

360度評価は長期的な取り組みが必要です。しかし、従業員のモチベーションアップや職場の活性化、管理職のマネジメント力向上といった効果を短期間で追い求めると、求める結果が得られずに運用を中止してしまうケースがあります。

とりわけ評価に不慣れな従業員が多い場合、評価の公平性を保つための研修や事前のすり合わせが必要です。360度評価を効率的に行うために、システムの導入を行わなければいけないかもしれません。このような労力・工数が発生していると、短期的な視点では費用対効果が見えにくくなり、運用に消極的になってしまいます。

対策としては、長期的なスパンで目標を定めることです。PDCAサイクルを回しながら運用方法を改善し、最終的な効果を最大化する姿勢が求められます。また、導入初期には評価スキル向上のためのトレーニングを実施しつつ、細かいマイルストーンを設定します。評価者の基準をすり合わせる、現場の運用効率化を行うなど、ステップを踏むことで効果を実感できるでしょう。

2.従業員の気分が落ち込むことでモチベーション低下や反発を招いた

評価結果を見た従業員が精神的ショックを受け、自尊心を傷つけられることでモチベーションが低下し、仕事に影響を及ぼす場合があります。

例えば、同僚から「協調性に欠ける」といった批判的な意見を受けた従業員が、これを過度に気にするあまり、チーム内でのコミュニケーションを避けるようになったり、意欲を失って業務効率が低下したりすることがあります。特に、上司だけでなく同僚や部下からの率直な意見が厳しいと感じられる場合、評価制度そのものに対する反発を招くリスクも高まります。

こうした問題を防ぐためには、フィードバック面談を通じて評価結果を建設的に伝えることが重要です。従業員が自身の成長に前向きに取り組めるよう、肯定的な面もあわせて伝えながら、評価に基づく具体的な改善策を提示し、必要なアフターフォローを行います。その結果、モチベーションの低下や業務への悪影響を最小限に抑えることが可能です。

3.評価シートの設問の数が多くて正当な評価に繋がらなかった

設問が多すぎる評価シートは従業員に過度な負担を与えます。適当な回答や不正確な評価に繋がる場合があります。その結果、評価制度全体の信頼性が損なわれてしまいます。また、設問数が多すぎる評価は、評価にかかる時間が増え、他の業務を圧迫する可能性もあります。

対策としては、設問数を精査し、必要最低限の項目に絞ります。評価作業の負担を軽減できます。また、従業員が設問の意図を理解しやすいよう、内容を分かりやすく設計することが重要です。

4.評価に対する納得度が客に低下した

普段評価する機会がない従業員が評価を担当すると、評価基準が曖昧になり、評価点にばらつきが生じることがあります。例えば、業務の成果を重視する従業員が「業績が不十分」と評価する一方で、協調性を重視する従業員が「周囲との関係性が良好」と高く評価するなど、評価内容が矛盾し、被評価者が結果に納得できない事態が発生します。

これにより、被評価者が評価制度そのものに対する不信感を抱き、モチベーションの低下や制度への反発を招くリスクが高まります。

こうした課題を解決するには、評価者に事前研修を実施し、評価基準や方法について十分に学ぶ機会を提供することが重要です。また、評価基準を統一し、誰が評価しても一貫性のある結果が得られる仕組みを整えることで、納得度の高い評価を実現できます。

5.評価を意識しすぎて社内コミュニケーションが停滞した

従業員同士が評価を気にしすぎると、自由な意見交換や率直なコミュニケーションが減少し、職場の活気が失われることがあります。例えば、会議の場で従業員が「自分の発言が悪く評価されるかもしれない」と懸念し、意見を控えることで議論が停滞するケースです。

さらに評価を避けようと忖度や媚び売りが横行し、職場の公正性が損なわれるリスクもあります。このような問題を防ぐためには、評価後のフィードバックを通じて改善点を適切に指導し、評価結果を建設的な議論や改善提案に繋げる場を設けることが重要です。

評価を個々の成長や職場全体の改善に繋げる意識を醸成することで、評価制度が職場の活力を高める要素となります。

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360度評価をスムーズに行う方法

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360度評価をスムーズに実施するためには、従業員の理解と協力を得ることが不可欠です。以下に、導入時に留意すべきポイントとその具体的な方法を紹介します。

導入目的を明確にして全員へ周知する

360度評価は人事評価や人材育成の手段として活用されますが、その目的を明確に定め、従業員全員に共有することが重要です。例えば、評価制度が導入された理由や結果の活用目的を広報しないと「管理強化」の印象を持たれ、ネガティブな反応を招く可能性があります。また、360度評価を人材育成にも活用するのかなど、評価の結果が何に反映されるのかを共有しておく必要があります。従業員に対して「なぜ360度評価が必要なのか」を丁寧に説明し、納得感を持たせることが円滑な運用の第一歩です。

360度評価のスケジュールを設定・周知しておく

あらかじめスケジュールを設定し、従業員に周知しておくことで、評価者や被評価者が事前に準備を進めやすくなり、作業が混乱するリスクを軽減できます。例えば「毎年4月と10月に実施する」「評価作業は2週間以内に完了させる」といった具体的なスケジュールを示すことで、従業員は繁忙期を避けて計画を立てることができ、評価作業が業務に支障を与えにくくなります。

回答者の人数を適切に設定する

回答者の選定は、評価の精度と実施負担のバランスを取る上で重要です。適切な回答者の人数は6~8人とされ、上司や同僚、他部署の関係者など、被評価者の業務を間近で観察できる人を選びます。

例えば、営業部門の従業員を評価する場合、直属の上司に加え、日々同行しているチームメンバーや業務連携の多いサポート部門のスタッフを回答者に含めると、具体的な職務行動や成果に基づいた公平な評価が可能になります。一方で、接点が少ない人を選んでしまうと評価が曖昧になり、精度が低下する恐れがあるため、注意が必要です。

適切な評価項目を設定する

評価項目を厳選することで、評価者の負担を軽減することが可能です。項目数が多すぎると、回答が粗雑になったり、集計や分析作業に時間がかかったりする可能性があります。

例えば「リーダーシップ」や「協調性」など、業務に直結する項目に絞ることで、質の高いフィードバックが期待できます。また、評価作業中の時間を勤務時間内に確保することで、評価作業への集中を促します。

まずはトライアルとして導入してみる

本格導入前にトライアルを実施することで、現場の反応や課題を確認できます。

例えば、営業部門で360度評価のトライアルを実施した際「評価項目が多すぎて時間がかかる」という意見や「具体的な行動に基づくフィードバックがほしい」という要望が挙がったとします。このようなフィードバックを受けて、評価項目を精査して減らし、フィードバック内容の質を高める研修を導入するなどの改善を行います。

トライアル後にはアンケートやヒアリングを行い、現場の意見を反映して評価制度を改善します。その結果、従業員の納得感が高まり、制度の有用性を理解してもらえます。段階的な取り組みを通じて、従業員からの信頼を得た上で本格的に導入することが、評価制度の成功に繋がります。

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360度評価で失敗しないためのマネジメント方法

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360度評価を効果的に活用するためには、評価を適切に管理し、対象者が成長に繋がるプロセスを作り出すことが重要です。以下では、360度評価をスムーズかつ効果的に運用するための具体的なマネジメント方法について解説します。

丁寧なフィードバックやアフターフォローを行う

360度評価の目的は、単に評価結果を共有することではなく、対象者の行動改善や成長に繋げることです。評価シートを回収した後は、対象者との面談を設け、評価の要点を伝えましょう。この際、改善点だけでなく、高く評価された点についても丁寧に説明し、対象者が自身の強みを自覚できるようにすることが大切です。例えば「顧客対応のスピードが他の従業員と比べて早い」という具体的な長所を伝えることで、従業員の自信やモチベーションを高められます。

丁寧なフィードバックを行わないと対象者が評価の意図を理解できず、改善に繋げられない場合があります。評価の結果が実際の行動改善に結びつかなければ、評価者の協力意識も薄れ、制度全体への信頼を損なうリスクがあるため、アフターフォローを徹底しましょう。

フィードバックの内容は具体的に書く

フィードバックは曖昧な表現を避け、対象者が具体的に何をすれば良いのか理解できるようにすることが重要です。例えば「リーダーシップをもっと発揮してください」という曖昧なコメントではなく「ミーティングで意見を求められた際、自身の考えをもう少し積極的に述べるとチームの方向性が明確になります」といった具体的な改善策を提示しましょう。

具体的なフィードバックは、対象者にとって次のアクションが明確になるだけでなく、評価者側でも改善が実際に行われたかを確認しやすくなります。

悪口や批判する内容にならないように注意する

360度評価では、フィードバックのコメントが単なる批判や悪口にならないように注意が必要です。例えば「話が長い」といった批判的なコメントは、対象者を落ち込ませるだけで改善の意欲を損ないます。このような場合「プレゼンテーションの内容を短く簡潔にまとめることで、聞き手により効果的に伝わります」といった建設的なアプローチを心がけるべきです。

さらに、長所を強調することも忘れないようにしましょう。「細部に注意を払う能力が高い」といったポジティブなコメントを付け加えることで、対象者は自分の強みを理解し、自信を持ちながら改善に取り組むことができます。

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360度評価項目の設問やフィードバックの例

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360度評価をスムーズかつ効果的に行うためには、どのような評価項目を設けるべきかを明確にしておくことが大切です。評価項目を適切に設定すれば、自由記述式よりも省力的な選択式の回答形式を中心に構成することが可能となり、評価者・被評価者双方の負担軽減に繋がります。以下では、上司から部下への評価項目例、部下から上司への評価項目例を挙げ、具体的な活用方法を紹介します。

上司から部下への評価項目例

上司が部下を評価する場合は、被評価者の業務遂行や職務姿勢に関わる項目が中心となります。具体例として、以下のような観点が考えられます。

勤務態度

【設問】業務開始時間を守り、安定して職務に取り組んでいるか

【具体的な選択式例】

(1) ほとんど遅刻や欠勤がなく、責任感が強い

(2) 時々遅刻があるが、業務には真面目に取り組んでいる

(3) 遅刻や欠勤が目立ち、業務への意欲が低い

コミュニケーション

【設問】チームメンバーや他部署と円滑な情報共有ができているか

【具体的な選択式例】

(1) 積極的に情報発信し、周囲とのコミュニケーションが円滑

(2) 必要最低限の情報共有は行うが、やや消極的

(3) コミュニケーションが不足し、情報伝達に問題がある

チームワーク

【設問】チーム目標達成に向けて、協力的な姿勢を示しているか

【具体的な選択式例】

(1) チームメンバーをサポートし、問題解決に貢献している

(2) 自分の業務はこなすが、チーム全体への貢献は限定的

(3) チームワークを乱す行動が目立つ

モチベーション

【設問】自ら目標を設定し、向上心を持って業務に取り組んでいるか

【具体的な選択式例】

(1) 高い意欲で目標に挑戦し、主体的に改善を図る

(2) 与えられた仕事はこなすが、積極的な向上意欲は低い

(3) 業務に取り組むモチベーションが著しく低い

部下から上司への評価項目

部下が上司を評価する際には、リーダーとしての資質や業務指揮能力、人材育成への取り組みなど、上司のマネジメントスキルに焦点が当たります。以下に具体的な例を示します。

リーダーシップ

【設問】組織の方向性を示し、チームを引っ張る力があるか

【具体的な選択式例】

(1) 明確な指針を示し、チームを前向きに引き上げている

(2) 必要な指示は行うが、リーダーシップは限定的

(3) 指示が曖昧で、チームがまとまらない

判断力

【設問】業務上の意思決定が迅速かつ的確であるか

【具体的な選択式例】

(1) 状況を的確に判断し、的を射た決定を下せる

(2) 判断に時間がかかるが、最終的には妥当な結論を得る

(3) 判断が遅く、しばしば不適切な決定を下す

業務遂行力

【設問】計画を立て、着実に業務目標を達成する力があるか

【具体的な選択式例】

(1) 計画的に仕事を進め、目標達成に貢献している

(2) 業務をこなせるが、効率改善や創意工夫に乏しい

(3) 計画性がなく、業務目標が達成されないことが多い

人材育成力

【設問】部下の成長を支援し、適切な指導やフィードバックを行っているか

【具体的な選択式例】

(1) 定期的にフィードバックを与え、部下の成長をサポートしている

(2) 必要なときに指導するが、継続的なフォローは弱い

(3) 部下育成に関心がなく、指導や教育が不足している

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360度評価に関するよくある質問

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360度評価を導入する際、多くの組織や従業員が共通して抱く疑問があります。以下では、特によく寄せられる質問とその対応策について解説します。

フィードバックした相手が分からない方法は?

360度評価には、評価者を明示する「記名式」と、評価者が誰か分からないようにする「匿名式」があります。匿名性を確保することで、評価者は気兼ねなく率直なフィードバックを提供でき、被評価者側も「誰から悪い評価をもらったのか」といった対人関係上の心配を軽減できます。

また、評価を実施する前に、従業員へ匿名性についてしっかり説明し、評価内容が特定の個人に漏れない運用を徹底することで、適正な評価が行われやすくなります。

360度評価で従業員が落ち込まない方法は?

360度評価は客観性の高い情報を提供する有用な手法ですが、厳しい指摘が多いと被評価者が落ち込むこともあります。そうした状況を防ぐには、評価結果に肯定的な側面を取り入れ、評価基準を統一するなどの工夫が求められます。

例えば、行動改善が必要な点だけでなく「顧客対応の迅速さ」や「チームを鼓舞する姿勢」といったプラス面を同時に伝えることで、被評価者は自分の強みを再確認し、前向きな気持ちで改善に取り組めるようになります。必要に応じて、特に厳しいコメントはそのまま伝えず、人事担当者が要点を整理し、建設的な視点でフィードバックすることも有効です。

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360度評価の効果も高める「働きがい認定・ランキング」

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360度評価は、組織内の人材育成や業務改善に寄与する制度として注目されていますが、その効果は組織全体のモチベーションやエンゲージメントによって左右されます。働きがいのある企業として認定されたり、ランキングで上位に入ったりすることは、自社のインナーブランディングを強化する絶好の機会です。従業員が自社に誇りを抱き、自らの職務に対する意欲を高めることで、評価に協力的になり、360度評価の精度も向上します。

インナーブランディングを通じて高められたエンゲージメントは、離職率の低下や、組織カルチャーへの再認識に繋がります。これによって、従業員同士が健全な関係を築き、評価の過程で生まれるフィードバックも建設的かつ有用なものとなっていくのです。結果として、360度評価の運用がスムーズになり、組織全体が持続的な成長と発展を目指せます。

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編集ライター 湯浦 孝恵

社会保険労務士事務所にて労務関係業務に携わる。経験を活かしたコラム記事を多数作成。2024年現在編集ライター歴約10年。数多くの企業の人事・労務コンテンツを作成。

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