シニアの働きがいを高めるために、企業ができることは何か?同志社大の太田肇教授とランキング上位企業・大和リース人事部長に聞く
更新日 2023.10.172023.10.17対談
Great Place To Work® Institute Japan(GPTW Japan)は、「働きがい認定企業」(2021年7月~2022年9月調査実施)の中から、特にシニア(管理職を除く55歳以上)の働きがいに優れた企業を各企業規模部門別に選出しました。
●選出企業一覧はこちら
2023年版 シニアランキング選出企業一覧
その記者発表会にて、シニアの働き方改革を提唱する同志社大学政策学部 教授の太田肇氏と、2023年版シニアランキングの大規模部門で5位にランクインした大和リース株式会社 上席執行役員 人事部長 佐伯佳夫氏、GPTW代表の荒川の3名でトークセッションを行いました。本記事では当日の内容をダイジェストでご紹介いたします。
※本記事は2023年版 日本における「働きがいのある会社」シニアランキング 記者発表会の抄録です。
※同日に開催された大和リース株式会社 佐伯氏による講演の内容はこちら:従業員の「全員活躍」を徹底的に追求 シニアの強みを引き出す大和リースの取り組み
※同日に開催された同志社大学政策学部 教授 太田氏による講演の内容はこちら:シニアの働きがいを高める働き方 「誇り」を高める自営型ワークスタイル
シニアの働きがいを高める働き方とは?
荒川:最初のテーマは、「シニアの働きがいを高める働き方とは?」です。大和リース様が今トライされているシニアの働きがいを高める取り組みについて、「一番ここが影響するんだ」というポイントを改めて教えていただけますか。
太田:私は二つあると思っています。一つは受動的に働くのではなく、もう少し自由度を持って働きたいということ。もう一つは、会社の中だけではなく、外の世界とつながりを持って、仕事を通して貢献して認められたいという意識を持っていることがシニアの特徴だと思いますね。
荒川:やはり自由であるのがポイントなんでしょうか。
太田:長く働いたから、あとは自由にしたい。仕事と私生活を両立させるために、週3日働きたいというシニアもいます。
荒川:大和リースではこの自由度の高い働き方を認めていますか。
佐伯:社外副業を含め、自由度の高い働き方を認めています。たとえば、インクルージョン推進室は社内複業という位置づけです。普段は違うセクションで仕事をして、月に3日間はインクルージョン推進、つまり人事部員の位置づけにしています。細かい話ですが、人件費も分けています。普段現場で働いている人が、日々感じていることを仕組みに反映できるとか、経験の幅が広がり、それが成長にもつながると思います。
荒川:ちなみにこの制度では、従業員が自分でテーマを選べるのですか?
佐伯:そうです。たとえば介護チームであれば、介護を経験した人たちが取り組んでいますし、関心の高いテーマを選んでいますね。
「仕事の特別な意味」を感じてもらうための重要なこととは?
荒川:続いてのテーマに移ります。「仕事の特別な意味」を感じてもらうための重要なことはなんでしょうか。仕事の意味や価値をどれだけ感じられるか、仕事に誇りを持てるかが、シニアランキングにランクインしている企業の特徴として顕著でした。
役職定年が象徴的だと思いますが、シニアになって会社から求められることを感じにくくなっていると思います。シニアがどのように仕事に意味や価値を感じてもらうのかは各社悩むテーマでしょう。大和リースではこれに関連する取り組みをしていますか?
佐伯:一人ひとりの仕事に分解して考えた場合、会社の上層部から「誰のための仕事」「何のための仕事」を考えて仕事をする大切さを常々話しています。
また「一隅を照らす」という言葉もよく使っています。自分が今いる場所で、最善を尽くしなさいという意味です。一つひとつは小さな光かもしれないけど、自分から光りましょうと。そのときに「これは誰のためにしているんだろう?」と意識するようにメッセージを発信しています。
荒川:会社のカルチャーとして、創業時代から綿々と続いている価値観があることがわかりました。そういう価値観があれば自然と仕事に価値を感じられるかというと、難しいケースもあるかもしれないと思うのですが、そのようなときは上司からどのようなアプローチをしていますか。
佐伯:ナラティヴアプローチをしています。ナラティヴとは物語という意味です。上司から部下に対して、部下の物語を聞くということですね。部下の話す内容の良し悪しを判断するのではなく、まずは最後まで話を聞く。その上で、助言をしていく。そのやりとりの中で、意味や価値を感じられるようになるのかなと思います。
荒川:若手だけでなくシニアに対しても、物語を引き出していくことが大事なのですね。
「誰のために」「何のために」という感覚が大切
太田:ヴィクトール・フランクルも意味探求の重要性を説いています。仕事の意味は何か考えるとき、自分の内側だけを見るのではなく、むしろ外側にいる「誰かのために」「何かのために」貢献できているという感覚が精神的な健康につながるものなのです。
荒川:私の大先輩にも営業の責任者からポストオフして、営業の一員として活躍している人がいます。その方は、ポストオフ後、管理職経験者が集まるシニア従業員のグループに編成されました。会社から組織貢献は求められていないように感じてしまい、「自分は会社にとっていらない人間なんじゃないか」と思ったそうです。
その後若手と同じグループに再編成され、若手がその先輩の発言や行動をリスペクトしてくれて、お互いに学び合うことが起きたそうです。そして、「組織に対して自分が貢献できることがこんなにあるんだ」という発見がやりがいにつながり、主体的に仕事をするようになったと話していました。やはり、組織への貢献などを通じて、仕事の意味や価値を見出していくことが大事なのだなと感じました。
※ポストオフの事例について詳しく知りたい方はこちら:2023年版 日本における「働きがいのある会社」シニアランキング 傾向解説
シニア活躍を促進していく上で、組織がまず着手すべきこととは?
荒川:最後の質問に移りたいと思います。「シニア活躍を促進する上で組織が着手するべきことは何なのか」です。今後、定年が65歳から70歳になることが見通されていて、太田先生がご指摘していましたが、日本では解雇はほぼできない中で、パフォーマンスを発揮してもらうにはどうしたらいいのか、多くの企業が悩んでいると思います。そうした企業に向けて、シニアの活躍施策として有効と思われる取り組みをお教えください。
佐伯:やはり理念浸透が重要だと思います。当社の社是の中で「事業を通じて人を育てる」というものがあります。それに加えて、「仕事を通して人格を磨く」という言葉も添えています。まず、こうした理念を大事にしています。目の前の仕事の話で言えば、居場所と役割を考えていくことが重要だと思います。「私はこの仕事で貢献している」「一定の承認を得られている」と感じられる居場所と役割を意識できたときにやりがいとエネルギーが湧いてくるものだと思います。どんな仕事も、やりがいのある仕事にもなり得るし、やりがいのない仕事にもなりえます。だからこそ、経営理念と、居場所と役割を意識することが大事だと考えています。
太田:私は、45歳くらいからキャリアの選択肢を用意することが有効だと思います。45歳以降は年功序列を維持することが難しくなってきます。ジョブ型や自営型、スピンアウトして会社と業務委託契約を結ぶなど、いくつかの選択肢を用意できるのは、やはり中年層以降になると思いますね。その制度が目の前にあると、若い段階からキャリアの見通しが立つので、若い時代の働き方も変わると思いますね。
荒川:キャリア自律という言葉も非常にホットですが、やはり若いうちから人生100年時代をしっかりとデザインして、目の前の仕事に没頭しながら自分で自分の働き方を選択していくことが大事だということですね。
大和リース株式会社 上席執行役員 人事部長 佐伯佳夫様 プロフィール
同志社大学政策学部・同大学院総合政策科学研究科教授 太田肇様 プロフィール
Great Place to Work® Institute Japan 代表 荒川 陽子 プロフィール
※ 本記事は2023年9月時点の内容です。