ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)とは?意味や違い、施策事例を紹介。

更新日 2022.08.222022.07.22コラム

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歴史的・地理的背景から欧米諸国に比べ同質化しやすい日本ですが、昨今はグローバル競争への危機感から、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)を推進しなければならないという雰囲気が強まっています。一方で、言葉だけが先走ってしまい「なぜD&Iをしなければいけないのか、いまいちピンとこない」という方もいるのではないでしょうか。今回は改めてD&Iを推進するメリットや、企業はどのようなことに気を付けていけばよいのかという点についてお話しします。

ダイバーシティとは?

ダイバーシティ(Diversity)とは「多様性」を意味します。職場において「ダイバーシティが実現している状態」とは、「多様な属性の人がひとつの職場に集まっている状態」ということができます。

何をもって多様なのかといえば、その対象は非常に多岐に渡ります。ダイバーシティを議論する際によく用いられるのは、「表層的(可視的)な属性」と「深層的(不可視的)な属性」の分類です。

<表層的(可視的)>
性別、年齢、人種、雇用形態、障がいの有無など

<深層的(不可視的)>
教育、経験、知識、スキル、価値観、考え方、コミュニケーションスタイル、性的指向など

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例えば同じ「女性」であっても、経験やスキルや価値観は人それぞれであるというのは当たり前の話ですが、企業でダイバーシティ推進というとどうしても性別・年齢などの表層的属性だけが着目されがちです。企業というのは表層的属性だけでなく、スキルや考え方などの深層的属性も含めて異なる人の集まりであるということは常に意識しておきたいものです。

インクルージョンとは?

インクルージョン(Inclusion)とは「包括」を意味します。一般的にはダイバーシティと組み合わせて「ダイバーシティ&インクルージョン」と表現されることが多く、それはすなわち「すべての働く人が、自組織において尊重され、能力を発揮できている状態」を指します。

GPTWの全員型「働きがいのある会社」モデルには「人の潜在能力の最大化(Maximizing Human Potential)」という尺度があります。これはまさしくインクルージョンの思想を反映したもので、属性や立場に関わらずあらゆる人の力が引き出されている(For All)ことの重要性を説いています。

全員型「働きがいのある会社」モデル

GPTW 全員型「働きがいのある会社」モデル(For Allモデル)

「ダイバーシティ」と「インクルージョン」が合わせて表現されるのは、ただダイバーシティ(多様性)に富むだけで組織的メリットがもたらされるわけではないためです。異なる“個”が職場で互いの違いにぶつかったときには、「違いを理解し、認め合う」ことが欠かせません。組織にそのようなインクルーシブなカルチャーがあって初めて、同質的な人たちだけでは生み出せないアイデアが生まれ、イノベーションや財務的成長に繋がるのです。

ダイバーシティ&インクルージョンの分類

日本企業のD&I推進の現状について、ここでは3つのテーマに分けてデータとともに見ていきます。

女性の活躍推進

日本のジェンダーギャップ指数は2021年時点で156カ国中120位(G7の中では最下位)となっており、女性活躍推進については企業だけでなく日本政府が強烈な危機感を持っています。

政府は当初、2020年までに「指導的地位に占める女性の割合」が30%に達することを目指していましたが、2021年7月時点でもその数値は8.9%に留まり、目標達成時期を「2030年までの可能な限り早期」に延期しました。そうした背景もあって2022年4月より女性活躍推進法が改正され、対象が大企業だけでなく中堅・中小企業に広がったことから、自分ごととして捉える企業担当者は増え始めていると言えます。

しかし依然として2030年に向けての道のりは険しく、課題が多いというのが大方の企業担当者の意見のようです。GPTWが調査参加企業向けに「女性活躍推進における課題」を尋ねたところ、以下のような結果となっています。

<女性活躍推進における課題(複数回答可)>
1位:女性に対する育児と就労の両立支援(全体35%、認定34%、不認定36%)
2位:女性の管理職登用・評価(全体33%、認定28%、不認定44%)
3位:女性管理職昇進意欲の低さ(全体28%、認定23%、不認定40%)

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※認定・・・GPTW調査の結果、「働きがいのある会社」認定を受けた企業
※不認定・・・GPTW調査の結果、「働きがいのある会社」認定を受けていない企業

筆者はこのうち「女性管理職昇進意欲の低さ」に注目しました。そもそも女性従業員に管理職になる意思がないのに、管理職比率を上げたいがために無理に管理職に登用するということだけは公平性の点から見てもあってはなりません。「であれば、どうすればいいのか?」と頭を抱えているご担当者は多いのではないでしょうか。

一律の正解を述べることはできませんが、「昇進意欲が低い=女性自身に問題がある」と捉えるのではなく、「会社として、昇進意欲を削いでしまっている要因は何だろうか」という視点を是非持って頂きたいと思います。実のところ、認定・不認定で分けて結果を見てみると、「女性管理職昇進意欲の低さ」を課題に挙げているのは不認定企業では40%なのに対し、認定企業では23%と開きがあります。つまり従業員が働きがいを持てる職場の土壌があるかということが、昇進意欲にも関係してくるのではないかということです。

*GPTWでは、男女問わず「働きがい」を感じることのできる組織づくりを応援しています。

外国人の活躍推進

少子高齢化により、日本国内の生産年齢人口は1995年をピークに減少の一途を辿っています。

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一方、外国人労働者を受け入れる日本企業は年々増加しており、2008年時点の外国人労働者数は48万6千人だったところから、2020年時点では172万4千人に上っています。

column_220722_05.png日本の現在の国内総生産(GDP)は世界第3位の位置を保っているものの、バブル崩壊以降長期のデフレに陥っており、国際競争への危機感が増しています。外国人を受け入れる理由は単なる人手不足だけではなく、「優秀な人材を国内に閉じず世界各地から呼び込みたい」「異なる文化的背景からくる新たな視点を事業に取り入れたい」といった期待があるでしょう。

そのために企業は「外国人労働者にとって魅力的な職場環境を用意する」ことが欠かせません。差別や不当な待遇をしないというのは当たり前のことですが、一人の従業員として尊重する風土や人事制度を組織的に用意することが大切です。

GPTWは経済産業省発行の「外国人留学生の採用や入社後の活躍に向けたハンドブック」内で紹介されている12のチェック項目の実施度合いについて、調査参加企業にアンケートを実施しました。

結果を見ると、「社内での日々の声掛けや社内外での交流機会の提供」「客観的な評価や処遇に基づく十分な説明」といった項目は実施している企業が多い一方で、「外国人社員のマネジメントを行う日本人社員に対する学びの機会」「外国人社員の母国文化・宗教などを考慮した社内制度の見直し」といった項目は実施していない企業の方が多くなっています。外国人と日本人に共通して取り組める施策については行っているが、「外国人ならではの配慮」という意味ではまだ発展途上であると言えるかもしれません。

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シニアの活躍推進

年齢のダイバーシティはどの企業にもあるものですが、シニア従業員への注目が高まっているのは、止まらぬ少子高齢化の未来を見据えた時に企業側の姿勢が変わっていく必要があるためです。

総人口に占める65歳以上の割合は、1980年には約10%でしたが、2022年現在は約30%。2040年には35%を超えると推定されています。多くの企業が人手不足に悩む中で、定年後のシニア人材を採用(あるいは再雇用)するという選択肢は持って然るべきでしょう。

実のところ、シニアの働く意欲は向上しています。現在の勤め先で定年退職する予定の人に、定年後も現在の勤務先で働きたいかを聞くと、2016年調査では53.7%だったのに対し2021年調査では63.5%まで増加しているのです。

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(出典:ジョブズリサーチセンター「シニア層の就業実態・意識調査2021」)

しかしながら企業側の姿勢はどうかと言えば、6割以上がシニアの採用に「積極的ではない」というデータが出ています。

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(出典:ジョブズリサーチセンター「シニア層の就業実態・意識調査2021」)

積極的ではない理由としては、「健康状態・体力が不安」「能力・スキルが不安」という声が多いようです。これらは「シニア」という表層的な属性に我々が抱いているイメージによるところが大きいのではないでしょうか。先に述べたように、同じシニアであっても体力やスキルなどの深層的なダイバーシティがそこにはあります。実際にシニア採用を行っている企業では、「シニアにしか分からないような知識や技術が役に立つ」「管理職経験者として若手の育成に貢献している」といったポジティブな声が多いのも事実です。

これからの時代は、シニア一人ひとりの潜在能力を企業側が公正に評価し、活かしていく組織づくりが求められています。

ダイバーシティ&インクルージョンが話題になっている背景

D&Iが話題になっているのは、一過性の流行によるものではなく、社会背景を鑑みたときには必然の流れであると言えます。

日本経済はいま、グローバル競争の激化、そして少子高齢化による生産年齢人口の減少という二つの大きな社会構造の変化にさらされています。平成元年には「時価総額世界トップ10」のうち7社が日本企業でしたが、今やトップ10には0社、トップ50にもトヨタ自動車の1社のみになりました。そんな中での「人手不足」。この状況からゲームチェンジを起こすには、新たな労働力を確保し、また確保するだけではなくそれぞれのスキルや価値観を融合させ新たなイノベーションを起こしていかなければならない―これこそがダイバーシティ&インクルージョンが叫ばれる背景であり日本の死活問題だということです。

また、昨今世界中で日常的にその言葉を耳にする「SDGs(持続可能な開発目標)」も、D&Iと深い関わりがあります。そもそもSDGsの目的は「誰一人取り残さない持続可能で多様性と包摂性のある社会の実現」であり、D&Iの思想そのものであると言えます。企業としてD&Iを推進することはすなわちSDGsの達成に貢献することに等しいのです。

関連記事:SDGsの達成に向けたGPTW指標活用のすすめ

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ダイバーシティ&インクルージョンのメリット

D&Iのメリットとは何でしょうか?経済産業省の「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」を基に4点ご紹介します。

①人材獲得力の強化

D&Iが進んでいることが、若い世代の就職先選びには重要な視点になってきています。PwCのミレニアル世代向けのグローバル調査では「多様性、平等性、多様な人材に対する受容性に関する方針が就職先を決める上で重要である」と回答した人の割合は女性で86%、男性で74%となりました(PwC「ミレニアル世代の女性:新たな時代の人材」、2015年)。

②リスク管理能力の向上・③取締役会の監督機能の向上

D&Iにはリスク管理能力の向上・取締役会の監督機能の向上といった、企業経営のマイナス要因を排除する働きも期待できます。

ダイバーシティに欠ける均質的な組織では、「グループ・シンク(集団浅慮)」と言って、集団であるがゆえにかえって不合理な意思決定がなされてしまうことがあります。アメリカでは、リーマンショックの原因は「同質的な取締役会の構成」が大きいと指摘されており、また女性取締役を1人以上有する企業は、1人もいない企業と比べて金融危機後の回復力が強い傾向にあったというデータがあります。

近年はESG投資が活況となっており、投資家の間でもD&Iは企業評価の指標に組み込まれています。日本では2021年6月に金融庁と東京証券取引所がコーポレートガバナンス・コードを改訂し、企業の中核人材における多様性の確保と情報開示を求めていく姿勢を明らかにしました。

④イノベーション創出の促進

D&Iの効果として特に企業経営層からも期待されているのがイノベーションの創出という点です。組織の中で多様な立場・価値観を活かし合うことがイノベーションの創出に寄与し、企業の業績、ひいては国の経済全体の底上げにも関わってきます。

例えば米国GPTWの調査では、歴史的に不利な立場にあった特定の従業員グループ(*)の働きがいが高い上場企業群(下図ではThrivingと表記)は、リーマンショックによるリセッションからの回復が早かったばかりか、2006年から2014年にかけて株価を35%上昇させています。S&P500の同期間の株価上昇率は9%ですので、約4倍の成果です。この結果からしても、多様な従業員が尊重されていることが事業に与える影響は無視できないと言えるでしょう。

*特定の従業員グループ・・・女性、有色人種、エッセンシャルワーカー、パートタイムの男性、長期勤続者

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(出典:Great Place to Work® “Hidden Pieces of the D&I Puzzle”)

ダイバーシティ&インクルージョン推進のために企業がすべきこと

ダイバーシティ&インクルージョンを推進するうえで、何から手を付ければ良いのでしょうか。経済産業省「ダイバーシティ2.0行動ガイドライン」では以下の7つのステップが示されています。

①経営戦略への組み込み
②推進体制の構築
③ガバナンスの改革
④全社的な環境・ルールの整備
⑤管理職の行動・意識改革
⑥従業員の行動・意識改革
⑦労働市場・資本市場への情報開示と対話

言葉で並べるには簡単ですが、痛みを伴う改革であることは想像するに容易いと思います。だからこそ、この7つのステップは何のためにやるのか、何故D&Iを推進するのかという「目的」の部分をぶらさないことが大切です。

GPTWとしては、その目的とは従業員の「働きがい向上」にあるべきだと考えています。「政府が要請しているから」「業績を上げるため」といった理由で、管理職や従業員の行動・意識改革に前向きになってくれる人は少ないでしょう。無理やり実行したところで、従業員の気持ちは付いてきてくれず、イノベーション創出のような本来得られるはずのメリットも得られません。従業員の気持ちがあってこそのD&Iなのです。

具体的には、取り組みを推進する過程においてサーベイ等の手段で定期的に従業員の声を拾う仕組みを持ち、従業員の働きがいの度合いがどのように変遷しているかをモニタリングすることをおすすめします。

ダイバーシティ&インクルージョンを実践する際の注意点

D&Iを実践する上で陥りがちな状況、注意すべきポイントについて解説します。

D&Iそのものが目的になる

女性管理職比率のような数字で表すことのできる成果を、投資家などのステークホルダーが求めているのは事実です。かといってそこに捉われていると、いつの間にかD&Iが手段ではなく目的にすり替わってしまうことになります。

例えば肉体労働が主体の職場で、女性比率が下がってしまうのは仕方のないことです。そこで無理に女性従業員を増やしたとて従業員全体の働きがいが損なわれてしまうかもしれません。あくまで働きがいを目的に沿え、自社に合ったD&Iの在り方を模索していきましょう。

一部の属性の人だけに対処する

D&Iはあくまで「すべての人」を対象とした取り組みであるべきです。一部の属性に対象を限定した施策が目立つと、他の従業員が不公平感を募らせる要因となり得ます。

ただしこれは、全ての人に画一的で平等な対応を取るべきということではありません。例えば外国人の従業員が言語やコミュニケーションのケアを必要とするのは自然なことであり、そういったサポートは企業として行って然るべきでしょう。しかしそれと同時に、当事者ではない従業員が何か不満を持ってはいないかということにも耳を傾け、声が上がれば対処していくことが大切です。

ダイバーシティ&インクルージョンの施策の取り組み事例

最後に、GPTWの「働きがいのある会社」ランキング選出企業の取り組み事例をご紹介します。まさにD&Iが推進されることにによって従業員の働きがい繋がっているという好事例です。

モルガン・スタンレー

2020年、同社はコア・バリューに「ダイバーシティ&インクルージョンへのコミットメント(Commit to Diversity and Inclusion)」を追加し、多様性を認め合う会社であることを内外に表明しました。このように経営トップ自らD&Iにコミットする姿勢を表明することは、従業員から経営への信用向上に繋がります。

さらに「ダイバーシティは人事部だけが担う課題ではなく、すべての経営陣が自分事と捉え、責任を果たすべき」という考えのもと、「ダイバーシティ・アンド・インクルージョン・カウンシル」を日本拠点で設立。多様性に富んだ優れた人材を採用し、育成し、維持するために何をすべきかを提案し、アクションにつなげることを目的としています。3名の部門長と様々な部署からの代表、従業員ネットワークのリーダー、人事部が構成メンバーとなっており、部門を越えた協働を行っています。

*事例の詳細は導入・取組み事例(モルガン・スタンレー)をご覧ください。

アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc.

同社は縦割りの組織でありながら、「部門横断型のERG (Employee Resource Group)戦略」を取って意識的にD&Iを推進しています。ERGとは、組織の中で共通の特性や人生経験がある人たちが一緒になるグループのことを指します。部門横断で互いを受容し合うことで、連帯感が生まれ、組織へのエンゲージメントの向上といった効果が見込めます。

例えば女性活躍やキャリア形成などにフォーカスした「WIN」、LGBTQ+とそのアライで形成される「PRIDE +」といったネットワークがあります。どれも社長や役員クラスがエグゼクティブスポンサーとしてついており、経営判断の一端を担っています。

*事例の詳細は導入・取組み事例(アメリカン・エキスプレス・インターナショナル, Inc.)をご覧ください。

まとめ

ダイバーシティ&インクルージョンの意味や分類、メリット、事例などをお伝えしました。日本を含め世界的に今後ますますD&Iが進んでいくことは言うまでもありません。その目的はSDGsで言われるように「誰一人取り残されない社会」の実現であり、すべての人がいきいきと働ける職場づくりにあります。是非その前提に立ち返りながら、自社らしいD&I推進の在り方を考えてみて頂きたいと思います。

Great Place to Work(R) Institute Japan 明石 美瑛

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新卒で総合広告代理店に入社し、BtoB・BtoC問わず様々な業種の企業のマーケティング・ブランディングに携わる。
2018年にGreat Place to Work(R) Institute Japanに参画し、マーケティング・広報を主に担当。「働きがいのある会社」に関する調査・研究や、認定・ランキングの普及に努める。

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