キャリア自律とは?定義やメリット、企業が支援・促進する方法
更新日 2024.08.302024.08.27コラム
目まぐるしい技術革新は個人に多様な働き方の選択肢をもたらし、個人と企業の関係性は変わりつつあります。人生100年時代と言われ、働く年月も長くなることが想像される中、自らのキャリアを他者に委ねず主体的に設計していこうという「キャリア自律」が注目されています。企業の立場では従業員のキャリア自律を促進すると転職してしまうのではという声もありそうですが、成長できる環境は個人の働きがいを大いに高めるもので、Great Place To Work®発表の「働きがい認定企業」でも積極的に取り組まれています。
一方で、海外と比較すると日本人は自身のキャリア形成に必ずしも積極的なタイプとは言えず、どちらかと言えば会社任せにしていた側面も否めません。
グローバル競争と労働市場の変化は、個人・企業の双方に新しい価値観への一歩を促します。本コラムではこのテーマの現状を整理し先進的な事例から成功のヒントを探ります。
目次
キャリア自律とは
キャリア自律の定義
キャリア自律とは、働く個人が自らの職業上のキャリアについて主体的に行動することです。将来のありたい自己像を描き、そこに至るキャリアパスや成長の計画を立てること、継続的に必要な能力・スキルを身に着け、仕事における経験を積み重ねていくことを意味します。例えば、会社の研修に参加する場合、単に上司から指示されて受講するのではなく、自分で必要だと判断し手を上げて受講する、あるいは研修を見つけてきて会社に受講させてもらうといった行動が近いイメージです。
キャリア自律という概念の歴史
一言でキャリア自律と言っても、その概念は歴史とともに変化してきました。1900年初期では長期雇用や年功序列が前提であり、「会社主導によるキャリア形成」が当たり前でした。その後社会の変化に伴い、1978年にエドガー・シャインが提唱したキャリアアンカー理論では、「個人の価値観こそがキャリアの選択に影響を与える」という概念が打ち出されました。
2000年代以降になると、ITの進展を背景にリモートワークに代表される多様な働き方が可能になり、個人はより自律的に働くことが必然になってきました。現代では、SDGsに対する社会的認知が高まってきた背景もあり、個人の価値観やライフスタイルも重視され、ひとり一人が希望するキャリアを築くことの大切さが唱えられています。
自律と自立の違いとは
ここで「自律」の意味合いについて考えてみたいと思います。よく似た表現に「自立」がありますが、両者の違いは何でしょうか。広辞苑によれば、「自律」とは、“自分で自分の行為を規制すること。自身の立てた規範に従って行動すること”であり、「自立」とは、“他の援助や支配を受けず、自分の力で判断したり身を立てたりすること”とあります。
企業で働く人に当てはめて考えてみると、「自律的な従業員」とは、自身やチームの目標を達成するために主体的に物事を判断しながら積極的に活動している人々と言えます。そのためには裁量や責任も与えられている必要があるでしょう。反対に、「自立的な従業員」とは、他者の力を借りずに一人でやるべきことをやり成果を上げることができる人々ということになるかもしれません。どちらも優れた能力であり良し悪しではありません。個人が置かれた状況や会社の期待によって自律か自立を求められると言えるでしょう。
キャリア自律が注目されている背景
さて、キャリア自律の概念は歴史的に変化しているとお伝えしましたが、現代社会においてその重要性が高まっている背景には何があるのでしょうか。企業を取り巻く3つの社会的期待を取り上げてみたいと思います。
- 少子高齢化社会にむけて個人の能力向上が急務である
- 多様な働き方に適応する必要がある
- 人的資本経営への対応が迫られる
少子高齢化社会にむけて個人の能力向上が急務である
日本社会は少子高齢化により一人二役の時代に突入するといわれています。企業内でも複数のプロジェクトに関わったり、兼務という形で他部門の役割を同時に担ったりする従業員もいます。今後多能工的に多様な業務をこなす従業員は、組織の宝と言えます。そのためには、従業員には自らさまざまなスキルや能力を継続的に高めてもらうことが大切です。企業内に留まらず、フリーランスや副業といった制度があれば、社会の中で別の役割が持てるようになり、従業員の人生そのものを豊かにする可能性があります。
多様な働き方に適応する必要がある
コロナ禍で多くの企業がリモートワークを導入したことをきっかけに、働く場所・時間については個人に裁量を与えているケースが増えつつあります。求職者の間でも、多様な働き方の選択肢があることは会社選びの重要な条件になってきました。
ただ企業の立場でみると従業員が好きな環境で働くことで生産性向上やイノベーションに繋がるというメリットも期待できる一方で、部下が目の前にいない分、上司としては管理・支援が難しくなるという現実的な問題もあります。多様な働き方と部下へのマネジメントをどう両立させていくのか、その一つの解決策として、自律的に働く従業員を育てることが注目されているのです。
人的資本経営への対応が迫られる
多くの企業がESGの観点から企業経営を行う中で、人材育成のための投資を行うことは重要課題の一つです。キャリア自律の促進は従業員のエンゲージメントを高めるという効果から見ても中心テーマと言えるでしょう。人は自分でやりたいことを目標に掲げながら裁量を持って意思決定ができたり、物事を進められたりするときに自己効力感を感じることができるといわれています。最近ではこうした働きがいに満ちた従業員の割合をエンゲージメント指標として、エンゲージメントサーベイを実施しデータとして公開している企業が増えています。
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会社としてキャリア自律に取り組む目的とは
GPTW Japanでは、「キャリア自律」に関する独自研究を行い、GPTW調査参加企業に、「会社としてキャリア自律に取り組む目的」についてアンケートを取りました。その結果、選択率の最も高いものは、「生産性向上」(79.8%)でした。
次いで、「離職率低下」(59.5%)、「採用力強化」(35.8%)となりました。
このアンケート結果からは、企業が積極的にキャリアの機会や研修といった育成プログラムを提供することを通じて職場における業務効率を上げていくこと、中・長期的には従業員が定着し、人材獲得においても優位な条件を整えておきたいという目的が明白になりました。
キャリア自律の取り組みが、採用活動において優位に働くことは、「新入社員意識調査2024」(リクルートマネジメントソリューションズ実施)の分析を見ても納得ができます。
調査結果をみると、新入社員が仕事をする上で重視するトップ2は、「成長」(32.2%)、「貢献」(23.1%)でした。同調査の分析によると、この傾向は例年同様としながらも、「専門性」(19.7%)が上位に浮上したのは、特徴的であると指摘しています。「労働環境の変化の中で、“自分自身の市場価値を上げたい”、“将来性のある職業で専門性をつけたい”という危機感をともなう意識の高まりがあるのでは」と特筆しています。「学校教育の中でも早い段階からキャリアを考える機会が設けられたりしていることも背景として考えられる」との分析もあり、若い世代ほどキャリア自律に対して前向きな姿勢が浸透している可能性を示唆しています。
企業が従業員のキャリア自律を支援するメリット
では、企業がキャリア自律に取り組むメリットには、どのようなことがあるのでしょうか。3つ挙げてみたいと思います。
- 従業員のエンゲージメントが高まる
- 新しい人の採用・既存従業員の定着に効果的である
- 生産性向上やイノベーションが期待できる
従業員のエンゲージメントが高まる
キャリア自律と従業員のエンゲージメント、働きがいには関係があるのか、先ほど触れたGreat Place to Work®による「キャリア自律」に関する独自研究(2024年版全体傾向レポート)において調査したところ、Great Place to Work®が発表している「働きがいのある会社」(下図「認定」)ほど、キャリア自律に取り組んでいることが確認できました。
自分の描くキャリアに向かって仕事に取り組むことができ、あるいは与えられている仕事が将来どのようなキャリアに繋がるのかが意識できている時、人は目の前の仕事に意味を感じ、充実感に満たされるでしょう。働きがいのある会社では自律的に働く従業員も多いというデータもGreat Place to Work®が過去に行った調査から出ています。自律的に働く方が自己効力感も高まり面白さも感じることができていると思われます。
新しい人の採用・既存従業員の定着に効果的である
キャリア自律が支援されている企業は、採用面で競争力があります。最新の新入社員調査が会社選びの条件として“早期成長できる環境”を挙げている通り、主体的なキャリア形成は彼らの重要課題です。またすでに職場で活躍している従業員にとっても能力開発の機会が恒常的に提供され、いつでも学ぶ環境が整備されていることは高い満足感に繋がりますし定着する条件となります。
生産性向上やイノベーションが期待できる
従業員自身が自分で立てた中長期のキャリア目標に向かって努力することは、そのこと自体が仕事に対する前向きな姿勢を引き出すものですが、研修や社内勉強会を通じて蓄積された知識が実際の仕事に活かされ、成果に現れるとき喜びを感じることでしょう。また従来のやり方に対して改善のアイデアが浮かべば、組織としての生産性の向上にも繋がります。一見業務と関係がないと思われた学びが、取り組んでいる課題の問題解決のヒントになることはよく聞く話です。新しいイノベーションにも発展する可能性があるのです。
日本企業が直面するキャリア自律支援の課題
これまで述べてきたように、キャリア自律は今後ますます重要な価値観になるのと同時に、組織にとってメリットも大きいことが分かります。一方で、いざキャリア自律に取り組むといっても日本人にとっては必ずしも得意分野とは言えないため、企業・個人共に躊躇してしまう場合もあるでしょう。各企業が自社の取り組み推進にあたり、想定される課題にはどのようなものがあるのでしょうか。いくつかの観点から整理してみます。
伝統的な制度が残る日本企業ならではの課題
海外企業と比較して日本企業では従来、終身雇用制度や年功序列などの制度が長く続き、会社主導によるキャリア形成が会社にも従業員にも当たり前となっていました。またカルチャーとして上下の関係性が厳しいことや、協調性が重視される特徴もあるため、キャリア自律といった個を中心とした考え方がなじみにくいという側面もありました。キャリア自律を促進するにはある程度企業側が失敗を許容することも重要ですが、どちらかと言えば保守的で、失敗を許容するカルチャーがあまりない企業もあります。
上記のような制度とカルチャーが色濃く残る場合には、個人の主体的な行動促進といっても一足飛びにはいかず、風土改革や切り替えのためのマインドセットが必要であり一定の時間がかかります。
多様な立場における課題
若手・女性といった多様な立場に立って考えてみましょう。一般的に若手従業員は、まだ仕事経験も浅く長期的な視野でキャリアを考える余裕はあまりないと言えます。また職場のカルチャーにもなじみ切れていないので、自分の将来への考えや希望を伝えることにも躊躇してしまう傾向があるでしょう。女性従業員は、日本社会においては、まだライフイベントによってキャリアの方向性が定めきれない部分もあり長期的な視点を持ちづらいとも指摘されています。職場に責任のあるポジションについている女性管理職がいない、さまざまな経験を重ねて長く活躍しているベテラン従業員がいない、など身近なロールモデルが不在で未来が描きづらいという側面もあります。
キャリアステージにおける課題
組織には、年齢・勤続年数のさまざまな従業員が働いています。つまりキャリアにおいては個々人異なるステージにあります。こうしたキャリアステージ別に、キャリア自律の取り組み課題を考えてみると新たな課題が見えてきます。例えば、入社歴の浅い「新入社員」は、新卒社員で言えば社会人としての経験が少ない、中途社員ではその企業の価値観・行動パターンに慣れていないといった課題があります。
ある程度年数を重ねた「中堅社員」であっても、中だるみや仕事に飽きがくる場合も一部懸念されます。昇進昇格の時期も重なり期待通りのステップアップができていない場合、会社へのロイヤリティを低下させてしまう従業員が出始めるのもこの層が多いです。
長期に渡り活躍してきた「シニア社員」については、健康面の懸念をきっかけに仕事への情熱を失ってしまうことや、スキルの陳腐化は感じているものの新しい技術の習得に前向きになれないといった場合も考えられます。
キャリア自律を進めるサイクル
このようにキャリア自律を進めていく上では立場によって、課題は色々とありそうです。そこで、企業が従業員のキャリア自律行動を促す方法として、リクルートマネジメントソリューションズが提唱する「キャリア自律を進めるサイクル」を紹介したいと思います。下図にあるように、最初のステップは「自己理解を進める」から始めてみます。次に「気になる領域を調べる/他者に会う」、「将来を描いてみる」、「とりあえずやってみる」を回します。何度かこのサイクルを繰り返すことで、自己理解が進み将来の方向性が見えてくることでキャリア自律に向けた行動が出てくる可能性が広がります。
複数の課題を目にするとキャリア自律に対してどこか難しく、とっつきにくさを感じてしまいますが、とにかく自分の置かれているコンフォートゾーンから抜けだし小さくとも新たな挑戦を続けることが大切で、そのことで見えてくる自己発見がキャリア自律のポイントになると思うと展望が開けそうです。
企業のキャリア自律支援の取り組み事例
企業が行うキャリア自律支援には具体的にどのようなものがあるのでしょか。再びGreat Place to Work®「キャリア自律」に関する独自調査の結果を見てみます。
調査の中では、キャリア自律を促すために取り組んでいることについて聞いてみました。その結果、企業で多く導入されていたものは、「人事評価結果のフィードバック」や「資格取得の金銭補助」といったものでした。一方で、まだそれほど導入されていないものとしては、「社内外キャリアカウンセラーによるキャリア面談」や「幅広い経験・スキルを獲得できるようなジョブローテーション」でした(「その他」「特になし、わからない」を除く)。おそらく、これらはある程度予算の確保が必要であること、またジョブローテーションにおいては、スキルマッチングや適切な計画などに時間がかかる等の理由が考えられます。
また、会社の規模別で選択割合に有意差が見られたのは、「人事評価結果のフィードバック」と「社内公募・社内FA(フリーエージェント)」です。
「人事評価結果のフィードバック」については、小規模・中規模でそれぞれ38.7%、46.8%と高い選択率となっています。小規模・中規模においては、日頃の働きぶりに関する個々の従業員との対話をキャリア自律につなげる機会と捉えていると考えられます。
「社内公募・社内FA(フリーエージェント)」については、やはり一定以上の組織規模が必要であるからか、小規模での取り組み割合は、中規模・大規模と比べて約半分程度となりました。
キャリア自律を支援する上での5つのポイント
キャリア自律を促すために、具体的な施策を実行し取り組みを加速させたい企業は今後増えてくると思いますが、支援を行う上での企業スタンス・姿勢について5つのポイントを示したいと思います。
- ポイント1 チャレンジや成長を促すカルチャーづくりをする
- ポイント2 従業員のやりたい気持ち(自発性)を尊重する
- ポイント3 裁量や責任のある仕事がアサインされる
- ポイント4 公正感が醸成されている
- ポイント5 心理的安全性の高い職場である
ポイント1 チャレンジや成長を促すカルチャーづくりをする
キャリア自律のためには、まず自分が成長したいと思える環境にいることが大切です。人は、漠然とした将来に備えてキャリアを計画することは難しいものです。よって、会社は、少しだけ背伸びした仕事を与えて自身の成長の必要性を感じてもらったり、上司は成功経験に繋がるような機会をつくって仕事の楽しみを感じてもらったり仕掛けることも大切です。また職場全体として、努力を惜しまない同僚ややりたいことを支援してくれる上司が多いほど本人は心強く感じます。日頃の何気ない活動の中で、困ったことがさっと言えて、その度に周囲の支援、協力が仰げる雰囲気づくりがあるとよいでしょう。また新しい挑戦には失敗もつきものです。トップが奨励し、称賛できるようなカルチャーが土台としてあることが望ましいです。
ポイント2 従業員のやりたい気持ち(自発性)を尊重する
GPTWの「働きがいのある会社」モデルでは、信頼のある職場づくりの基本要素として「尊重」が組み込まれていますが、これは、従業員が会社や上司から大切にされていると感じることができるかどうかの指標です。会社や上司は人として従業員を尊重し、また本人がやりたいこと(Will)を支援することが大切です。キャリア自律も上司や周囲の押し付けではなく、本人のやりたい気持ちがまずは大切なので、それを考えるための支援があるとよいでしょう。働きがい認定企業では、会社が提供する研修は基本的に手上げ制としている会社も多いのです。
ポイント3 裁量や責任のある仕事がアサインされる
自律的な従業員は、自身やチームの目標を達成するために主体的に物事を判断しながら積極的に活動していると前述しましたが、主体的に物事を進める上で前提となるのは意思決定できる権限が与えられていることです。なにか大切な判断が必要な都度、管理者の指示を仰がないといけない、あるいは複雑な承認のプロセスがあると気持ちがそがれてしまうリスクもあります。また適切な仕事のアサインは、上司が部下の強みや弱みを正確に把握できていることもポイントです。1on1を利用しながら、日頃の仕事ぶりを観察しながら理解するように努めましょう。
ポイント4 公正感が醸成されている
自己成長に向けてやる気になって研修を受講したり新しい仕事にチャレンジしても、それらがきちんと評価されたり、ポジティブなフィードバックがなければ継続することは難しいと言えます。理想としては、上司が部下の学習が活かせる仕事を任せたり、プロジェクトにアサインしたりすること、または学びをチームに還元できるような時間が確保できるとよいでしょう。働きがい認定企業の中には、学習したいことを周囲に宣言した上で、学習時間を皆が記録し、一定時間以上の場合は表彰している例があります。また学ぶ機会は立場に関わらず広く開かれていることが大切です。
ポイント5 心理的安全性の高い職場である
キャリア自律は自分で行うのではなく、上司をはじめとした周囲のサポートが欠かせません。そのために自分の目指す方向性やありたい姿などを日頃から共有し、本人の仕事ぶりや成果について適切なフィードバックを行うとよいでしょう。そのためにはぶつかっている壁や悩みについても安心して相談できる関係性が必要です。中には成長することに消極的な従業員もいるかもしれません。なぜそうなのか理解を示しながら原因をさぐる必要があります。心理的安全性を高めて双方向のフィードバックがしやすい状況をつくることは大変有効です。
関連記事:心理的安全性の高い職場のつくり方 ~働きがい・エンゲージメントの観点から~
働きがい認定企業が行うユニークなキャリア自律支援策
最後に、Great Place to Work®が選定する働きがい認定企業で導入されているユニークなキャリア自律の支援策を紹介します。
キャリア開発研修
キャリアのステージ別にあった研修を実施します。また期ごとに設定される目標面談ではキャリアシートに基づいて開発するべきスキルも上司と話し合い、そのための研修が選定されます。期末には実際研修の成果が業務にどう生かされたのか、次のステップには何が必要かといった細かな点も話し合います。
1on1ミーティング
1か月ごとのミーティングを通じて、マネージャーはメンバーの積極的なキャリアの構築を支援します。個人のキャリアに関する相談やフィードバックの提供が行われ、成長のための領域を特定し、自己開発計画を立てる機会としています。キャリア開発のための専用ポータルを用意して本人、上司いずれの立場でも悩みが解決できる情報を提供している企業もあります。
関連記事:1on1ミーティングとは?目的や進め方、話すことのテーマを紹介
キャリアカウンセラーによるキャリア面談
外部のキャリアコンサルタントの面談を受けられる制度があります。各組織にキャリアコンサルタントを設置して、様々な視点でのアドバイスをもらえる例もあります。中長期的な視点で本人の強みや成長機会を棚卸ししたり、目指すべき姿を描いたりするフォローを行います。
スキル獲得(育成)のための配置・異動
いわゆる社内公募制度(オープンポジション制度)と言われるもので、社内で退職者が出た場合、新設のポジションなどがあった場合に広く社内から応募者を募り公正な選考を経て人材配置します。ある会社では年に2回全社で実施。社内SNSやオンライン座談会等を通じて、全社員が募集内容を知ることができ、性別・年齢・役職にかかわらず希望のポストに応募することができます。
資格取得の金銭補助と休暇付与
会社が必要と認めた資格の受験費用(上限あり)および資格の年間登録料の実費 (業務遂行に必要な資格である場合のみ)を負担します。対象資格は毎年各事業部長陣へヒアリングして決定します。また試験休暇といって、資格試験前に集中して学習できるように最長10日間の休暇を付与する企業もあります。
アルムナイ(=企業を退職したOB/OG)ネットワーク
会社を一度退職した社員を中心に「アルムナイ・リレーション・プラットフォーム」を導入し、ネットワークを通じてキャリア開発支援やグループ情報の提供、アルムナイ採用に関する情報の共有を行うものです。中には現役社員も輪に入れて仕事上の悩みや協働パートナーをアルムナイに相談する例もあり、社内にとどまらない人材交流が社員の成長に寄与しています。
関連記事:アルムナイ採用とは?意味やメリット、実施のポイントを解説
業務とは関係のない仕事への挑戦
通常の労働時間の10~20%を限度に業務とは関係のない学習・作業・交流(プロジェクトなど)に時間を使ってよいという制度があります。自己研鑽をねらいとしていますが、イノベーションの機会として位置付けている企業もあります。交流をねらいとして、他部門へ短期留学できる制度もあります。通常は異動がなければ経験することができない業務を気軽に体験できることで、ネットワーキングや新しい目線の獲得が期待できます。これを社内副業制度としてグループ企業への挑戦も可能としている企業例もあります。
大学などの研修補助
MBAや大学院への入学を希望する従業員に費用の一部を負担する企業があります。高度人材育成の一環として学びのバックアップのための投資を行います。
サバティカル休暇
サバティカル休暇とは、1~2年といった長期の休暇が取得できる制度で認定企業の中にも導入している企業があります。主な目的としては、海外留学や資格取得といった学習のためが多いですが、ボランティア活動やリフレッシュといった内容でも取得できる場合もあるようです。仕事から長期間離れることで新しい視点や考え方を習得できる意味では効果が高いものと言えます。改めて自社の良さや自身の強みについて認識できる機会にもなり得ます。
経営業務への参画機会
仕事の全てがいつもワクワクさせてくれるものとは限りません。本人の意識次第と言ってしまえばそれまでですが、会社や上司はできる限り部下にとって新しい挑戦ができる仕事をアサインできるよう配慮するとよいでしょう。コンサルティング会社のRegrit Partnersでは、通常の業務では触れることがなかなかできない経営業務を担える機会を提供しています。手上げ制で応募した従業員は自分の新たな可能性に気づく機会となり、加えてコンサルタントとしても高い視座を獲得することができています。
関連インタビュー記事:株式会社Regrit Partners
抜擢制度
年齢や性別に関わらず一定の研修受講後に管理職登用されることは、学びの成果を発揮する場が明確化しており、意欲的な従業員にとっては公正な仕組みとして評価されます。Apexでは、マネージャートレーニングの受講後に本人が望むタイミングで昇進ができるという配慮があるそうです。キャリアを自身の選択に任せている良い事例と言えます。
関連インタビュー記事:Apex株式会社
キャリア自律の環境整備に向けて組織の現状把握を行う
このコラムでは、キャリア自律が注目されている背景や企業で取り組むメリット、実際に取り組みが進んでいる企業事例について述べてきました。まだキャリア自律に向けた対応にそれほど熱心ではない企業でも、変化に富んだ時代への対応を見据えれば、取り組みの必要性は感じていただけたのではないでしょうか。自社の採用活動や従業員の長期活躍のためにも成長できる環境づくりを整えることは不可欠です。
キャリア自律への対応を進めていく上では、職場に適切な環境が整えられていることが鍵となります。キャリア自律を促進する環境とは、先に述べた「心理的安全性」、「失敗が許容されるカルチャー」、「従業員への尊重」、「公正感」、「責任のある仕事」を包含する組織です。
Great Place to Work®のサーベイでは、まさにこの5つのポイントについて測定することが可能です。ぜひ一度調査を行い、自社の現状を確認してみませんか。
従業員が定着しない原因を突き止めます。エンゲージメントサーベイ
世界約170ヶ国で10,000社以上が導入。機能豊富なサーベイプラットフォームで、従業員の声を可視化して働きがいを高めませんか?上位企業は「働きがい認定企業」に選出!
Great Place To Work(R) Institute Japan シニアコンサルタント 今野 敦子
フランス国立ボンゼショセ工科大学MBAコース取得。
外資系航空会社、医療系商社の人事部を経て、リクルートマネジメントソリューションズに入社。人事領域において、採用・制度設計・人材育成など一連の業務に携わる。
2009年GPTW Japan設立メンバーとして、事業立ち上げに参画。働きがいのある職場を目指す多くの企業などに調査分析、経営層への提言と支援を行う。