リテンションとは?人事業界での意味や施策例・企業事例を徹底解説

更新日 2023.09.292023.09.29用語集

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リテンションとは人事領域で従業員の維持、すなわち離職防止のための活動を指します。従業員の相次ぐ離職などをきっかけに、どうすればリテンションに繋げられるのかと悩む人事ご担当者は多いのではないでしょうか。本記事ではリテンションの目的やメリット、施策例、企業事例などについて整理して解説します。

リテンションとは?

リテンション(retention)とは、顧客や従業員などの「維持・継続」を指します。

より具体的には、優秀従業員の会社へのエンゲージメントを高め、離職を防止するための活動のことです。「リテンションマネジメント」と言うこともあります。

マーケティング用語として顧客の維持・継続を目的とした活動を指してリテンションと言うこともありますが、本記事では人事用語のリテンションについて詳しく解説していきます。

リテンションの目的

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リテンションの主な目的は、従業員の離職率を低減し、組織が安定的にパフォーマンスを発揮できるようにすることです。これにより、貴重なノウハウや経験が失われるリスクを軽減し、新たな従業員を育成・教育するコストや時間を削減できます。

また、長期的な雇用関係を築くことで、従業員はその組織においてキャリアアップ・スキルアップを重ねます。結果として労働生産性向上やイノベーションの促進に寄与すると考えられます。

リテンションが注目される理由

リテンションが注目されるようになった背景には、大きく2つの要因があります。

慢性的な人材不足

1つ目は、「慢性的な人材不足」です。現在の日本では少子高齢化、団塊の世代の大量退職により労働人口は減少傾向にあり、企業は必要な働き手を確保できず、慢性的な人材不足に悩まされています。このような状況下でも企業は生産性向上を目指していくことが必要なため、従業員に長く働き続けてもらうためのリテンションの取組みが企業の重要な経営課題になっていると考えられます。

人材の流動化

2つ目の背景としては「人材の流動化」が挙げられます。現在の労働市場では定年まで一つの企業で働き続ける終身雇用の概念が弱まりつつあり、転職市場の活発化が見受けられます。その傾向は特に若年層に見られ、早期退職が多くなっていることもリテンションが注目される背景の一つであるといえます。コア人材・優秀な人材・若手従業員をとどまらせるためにも、リテンション施策は重要です。

リテンション活動に取り組むメリット

リテンション活動に取り組むメリットには、以下のようなものがあります。

離職率の低下

リテンション施策を導入することで、従業員が長期的に働き続けることが期待されます。これにより、離職率が低下し、組織が安定的にパフォーマンスを発揮できるようになります。

生産性の向上

リテンション施策を導入することで、従業員のモチベーションが向上し、生産性が向上することが期待されます。また、長期的に働き続けることで、従業員のスキルや経験が蓄積され、生産性がさらに向上します。

人材育成コストの削減

リテンション施策を導入することで、離職率が低下し、新規採用や教育・研修などの人材育成コストが削減されることが期待されます。

企業イメージの向上

テンション施策を導入することで、従業員満足度が向上し、企業イメージが向上することが期待されます。これにより、優秀な人材の採用や顧客満足度の向上など、ビジネスにおいて様々なメリットが生まれます。

以上がリテンション施策の導入メリットです。企業においては、長期的なビジネス戦略としてリテンションのための施策を検討することが重要です。

従業員の退職理由

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従業員の退職理由には様々なものがありますが、一般的に多い退職原因として、以下の5つが挙げられます。

給与や福利厚生制度に対する不満

給与や福利厚生制度が他社と比較して劣っていると感じ、退職するケースです。

労働時間や労働環境に対する不満

労働時間が長かったり、休暇が少なかったりする場合に不満を感じ、退職するケースです。

仕事内容に対する不満

期待する仕事内容と違ったり、適性が感じられず自信を失ったりして、退職するケースです。

職場の人間関係に対する不満

職場の人間関係がうまくいかず、退職するケースです。特に上司との信頼関係の悪化は、「認めてもらえない」「自分はこの組織で活躍できない」という感情に繋がりやすく、退職に至る可能性が高くなります。

会社の将来性に対する不安

業績不振や経営悪化、あるいは経営層のビジョンが見えないなどの理由から会社の将来性に不安を感じ、退職するケースです。

以上が、一般的によく聞かれる従業員の退職原因です。裏を返せば、これらの問題を解消に導くような施策を行うことで、離職率を低下させることが出来るでしょう。

リテンション施策の種類

リテンション施策は、主に金銭的報酬による方法と非金銭的報酬による方法に分けられます。

金銭的報酬

金銭的報酬とは、文字通り金銭的なメリットを提供することで、従業員を引き留める方法です。例えば、給与アップ、ストックオプション、福利厚生などが挙げられます。
金銭的報酬は、従業員の生活に対して直接的なメリットを提供することができるため、リテンション施策として効果的です。ただし、金銭的報酬はある程度の水準に達するとそれ以上の満足には繋がらないことを示唆する研究もあります(※)。従って非金銭的報酬と併用することが重要です。

※Kahneman and Deaton(2010)が所得と幸福・人生の充実度の関係を調べた結果、所得が7万5000ドルを超えると両者の間に相関が見られなくなった。

非金銭的報酬

非金銭的報酬とは、お金以外の方法で従業員を引き留める方法です。例えば、従業員の能力開発支援、コミュニケーションの活性化などが挙げられます。この場合の従業員にとっての報酬とは、経験やスキル、「達成感」のような心理的にプラスの感情などが挙げられます。非金銭的報酬は、従業員と長期的に良好な関係を築くために重要です。

効果的なリテンション施策

リテンション施策は、言い換えれば従業員の会社への満足度を上げるための施策であるため、「これさえやれば成功する」というような万能薬はありません。企業の状況によって効果的な施策は様々ですが、以下には参考になるいくつかの施策例を紹介します。

従業員の能力開発支援

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従業員の能力開発支援は、従業員の能力を高め、企業の競争力を向上させるための重要なリテンション施策の1つです。能力開発支援には、様々な方法があります。

集合型研修

複数の従業員を一堂に集めて行う研修形式で、トレーナーや専門家からの指導を受けながら、グループで学習を進めます。知識共有やコミュニケーション強化が図られ、参加者同士の相互交流も促進されます。

e-ラーニング

電子的なプラットフォームを通じて行うオンライン研修形式で、コンピュータやスマートデバイスを用いて個別に学習を進めます。自分のペースで学べるため、柔軟性が高く、時と場所に制約されずにスキルや知識を習得できます。

OJT研修

On-the-Job Trainingの略で、実際の業務現場で上司や経験豊富な同僚から直接指導を受けながら学ぶ形式です。実践的なスキルや知識の習得が主な目的であり、実際の業務に密接に関連しています。

資格取得支援

授業印が専門的な資格や認定を取得する際に組織が支援する取り組みです。学習費用の補助や勉強時間の提供など、資格取得に必要なリソースを提供してキャリアの向上を支援します。

能力開発支援には、厚生労働省が提供する「人材開発支援助成金」を活用することができます。この助成金は、事業主が雇用する労働者に対して、職務に関連した専門的な知識及び技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合等に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度です。

従業員のキャリア形成支援

従業員のキャリア形成支援は、従業員が自身のキャリアパスを思い描き、能力を高めていくための重要なリテンション施策の1つです。キャリア形成支援には、様々な方法があります。以下はその一例です。

キャリア面談

上司や人事担当者と従業員が定期的に行う対話の場です。個々の従業員に合わせたキャリアプランを作成し、目標やステップを明確にして、成長の方向性を示します。

キャリアコンサルティング

専門のキャリアコンサルタントや専任の担当者が従業員に対して、キャリアのアドバイスや支援を提供する活動です。

キャリア開発研修

キャリア開発に焦点を当てた研修プログラムを提供します。階層別(目的別)の研修や、年代別で節目に行う研修があります。

給与体系や評価基準の見直し

給与体系や評価基準の見直しは、従業員のモチベーションを維持し、離職率を低下させるための重要なリテンション施策の1つです。給与体系や評価システムは、企業の人材ポリシーに適したものを採用することが重要です。

給与体系の見直し手順

1. 賃金水準の調査: 同業種や一般的な賃金水準を調査し、相場を確認します。

2. 給与体系の見直し: 調査結果を踏まえて、会社が求める人材像に合わせて賃金項目や報酬基準を見直します。

3. 移行シミュレーション: 新しい給与体系に既存従業員を当てはめ、現行給与との比較を行い、賃金総額が意図した結果になっているか確認します。

4. 従業員への説明: 新しい給与体系を実際に運用する前に、従業員に対して詳細な説明が必要です。従業員が変更の意図や背景を正確に理解した状態で運用を行います。

評価基準の見直し手順

1. 評価基準の確認: 会社のビジョンやミッション、求める人材像などを明確にし、それに合わせた適切な評価基準を検討します。

2. 評価方法の検討: 360度評価やMBOなど、適切な評価方法を検討します。

3. 従業員への説明: 新しい評価制度を実際に運用する前に、従業員に対して詳細な説明が必要です。従業員が変更の意図や背景を正確に理解した状態で運用を行います。

これらはあくまで一例です。企業ごとに異なるニーズや状況に応じて、適切な給与体系や評価システムの見直しをしましょう。

社内異動などの人材交流

異動・配置による人材交流は、従業員の能力開発や社内ネットワークの強化・構築を目的とした重要なリテンション施策の1つです。人材交流を促すには様々な方法があります。

ジョブローテーション

従業員に対して、異なる職種や部署への定期的な異動を行う制度です。

社内公募制度

組織内で職位やプロジェクトの空席が発生した際、従業員にその情報を公に募集し、内部から応募を受け付ける制度です。

社内FA制度

一定の資格条件を満たした従業員がFA(フリー・エージェント権)を獲得し、自らを他部署へ売り込んで異動する制度です。

自己申告制度

従業員が自身のキャリア目標や興味を自己申告し、その情報を基に組織が適切なキャリアパスや成長機会を提供する制度です。

従業員同士のコミュニケーションの促進

glossary_230929_04.jpg社内コミュニケーションの活性化は、従業員のモチベーションを維持し、離職率を低下させるための重要なリテンション施策の1つです。社内コミュニケーションを活性化させるためには、様々な方法があります。

社内コミュニケーションツールの導入

社内コミュニケーションツールを導入することで、従業員同士のコミュニケーションがスムーズになります。メールでのやり取りよりも雑談のようなコミュニケーションも生まれやすくなります。

社内イベントの実施

社内イベントを実施することで、従業員同士の交流が促進されます。例えば、スポーツ大会や納会、誕生日会などがあります。

部門横断的なチームの形成

部門横断的なチームを形成することで、部署間の壁を取り払い、コミュニケーションが促進されます。

オフィスレイアウトの工夫

オフィスレイアウトを工夫することで、従業員同士のコミュニケーションが促進されます。例えば、フリーアドレスにする、オープンスペースを設けるといった方法があります。

社員食堂の設置

社員食堂を設置することで、従業員同士が自然に交流する機会が増えます。

これらはあくまで一例です。企業ごとに異なるニーズや状況に応じて、適切な社内コミュニケーション活性化策を検討することが重要です。

オンボーディングの強化

入社したばかりの社員の離職防止という点では、オンボーディングは重要なリテンション施策の1つです。オンボーディングとは、「新しく会社や組織に加わった人材に、組織に慣れてもらい、組織への定着・戦力化を促進するための一連のプロセス・取り組み」のことを指します。

オンボーディングを実施する際のポイントについては以下の記事で解説していますので、是非チェックしてみてください。

関連記事:採用成功につながるオンボーディングとは?意味や施策事例を紹介。新入社員と中途社員での違いやポイントも解説

ワークライフバランスの改善

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ワークライフバランスの改善は、従業員のモチベーションを維持し、離職率を低下させるための重要なリテンション施策の1つです。一日の大半を仕事に費やしているといった不均衡なワークライフバランスは、身体的な不調だけでなく、不安やうつ、不眠症といった精神的な不調のリスクを増大させることがあります。

ワークライフバランスを改善するためには、様々な方法があります。例えば、次のような取り組みが挙げられます。

労働時間の削減

時短勤務や定時退社など、労働時間を減らす取り組みがあります。

年次有給休暇の取得促進

年次有給休暇の取得促進により、従業員がプライベートな時間を確保することができます。

仕事と家庭の両立支援

育児休暇や介護休暇、勤務地フリーなど、仕事と家庭の両立支援により、従業員が家庭と仕事を両立することができます。

フレックスタイム制度の導入

始業・就業の時間を従業員が自由に決められる制度で、自身のライフスタイルに合わせて働くことができます。

リモートワーク

自宅など会社から離れた場所で仕事を行う勤務形態です。育児や介護との両立にも対応しやすいことから、働き方改革の一環としてリモートワークを導入する企業が年々増加しています。

関連記事:働き方改革とは?具体例や関連法の内容をわかりやすく徹底解説

リテンションの企業事例

株式会社現場サポート

建設業の顧客をサポートするIT企業である同社。設立してから最初の5年の業績は好調でしたが、ピーク時は離職率が27%ある状態でした。社長の福留氏は「その頃に圧倒的に欠落していたのは理念」と語ります。それから理念とビジョンを明確にして、組織への浸透をはかるように。近年では最大で年86回、社長主催の勉強会で、繰り返し理念とビジョンの振り返りなどをしました。

また、退職に繋がりやすい疾病者のケアも充実しています。長期疾病者のケアに関するガイドラインを定める、フルフレックスタイムのコアタイム制限の排除、定期的な面談を通じて段階的な復帰支援などが行われています。

理念経営を徹底や従業員を尊重する仕組みで、直帰5年間での離職者はゼロ(2020年時点)になりました。

関連記事:株式会社現場サポート(導入・取組み事例)

株式会社NATTY SWANKY

飲食店を経営する同社は、人材の定着のために様々な取り組みを行いました。まず、価値観や行動指針の明文化です。社員全員が集まる機会では行動指針に関するテストをするなどして、単なる明文化だけでなく浸透を図っています。これにより、従業員の目指す方向性が一致し連帯感が生まれ、離職に繋がりづらくなります。

そのほか、月1回の課題図書に対し感想文を投稿すると報酬がもらえる「読書感想文制度」、各店舗からの選抜スタッフで店舗営業を行う「最強店舗」、社内SNSにおける社長自らの発信や朝礼の動画の共有といった様々な施策があります。
これらの取り組みの成果として、離職率は飲食業界平均の3分の1程度で収めることができていると言います。一般的に離職率が高いと言われる飲食業界でのユニークな事例です。

関連記事:株式会社NATTY SWANKY(導入・取組み事例)

まとめ

企業成長の原動力は人材です。リテンションは、少子高齢化の日本において企業が成果を出し続けるために重要な取り組みだと言えます。離職率の低下という目先のメリットだけでなく、従業員が自社で経験を積み重ねることでノウハウが組織に還元され、生産性向上やイノベーションに繋がります。

本記事では様々なリテンション施策を紹介しましたが、それらをやみくもに実行するだけではリテンションには繋がらないこともあります。まずは自社の従業員が会社に対してどう感じているのかを従業員意識調査などで可視化し、浮かび上がった課題に対して手を打つようにしていきましょう。

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