採用広報とは? 戦略の立て方や成功ポイント、企業事例を解説

更新日 2024.07.042024.07.04コラム

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貴社の採用はうまくいっていますか。おそらくこの質問に大満足と回答される企業は多くはないのではないでしょうか。なぜなら採用は母集団形成、選考、内定、入社、オンボーディング等、プロセスは多種・複雑であり、長期に渡るためどうしてもどこかに課題感を感じてしまうものです。しかし悩んでいるのは企業だけではありません。求職者も同じです。会社選びは個人の人生にとって重要なイベントの一つと言っても過言でなく不安はつきものです。両者の想いが統合し最適化するにはどうしたらよいか。このコラムでは採用広報という切り口からそのヒントを考えてみたいと思います。

採用広報とは

採用広報の意味

採用広報とは、企業が求職者向けに自社を広報(PR)することを通じて、より魅力的な人材を採用する活動のことです。これまで求職者への情報発信は、外部の専門媒体への掲載、説明会、採用イベントなど定型的な形式で行うことが一般的でしたが、採用市場の競争激化・デジタル化などを背景に、企業自身もSNSを活用し積極的に関わるなど多彩な動きが出ています。前回のコラムでは、雇用主としてのブランドをどう構築するかをテーマに「採用ブランディング」についてお伝えしましたが、今回はこのブランドイメージをターゲットとなる求職者にどう届けていくかに焦点をあてていきます。

関連記事:採用ブランディングとは? 目的、実施の方法・ポイント、事例を解説

採用広報の目的

採用広報は上述の通り、企業の認知を高め、求職者に自社に興味を持ってもらう活動のことですが、経営視点で見たときにどのような目的があるのでしょうか。端的に言えば、企業にとって欠かせない“人材を安定的に確保”ができること、そして特に会社の魅力をよく理解した人が採用されることによって、長期的には、“業績・生産性の向上”や、“よいカルチャーが強化”されるといった効果が期待できます。詳しくみてみましょう。

安定的な人材確保

採用広報における発信内容は多岐に渡りますが、最も重要なメッセージは企業理念と価値観です。会社としての使命は何か、何を大切にしてビジネスを行うのか、これらを明確にして伝えることが第一歩と言えます。理念に共感し、価値観にフィットした人材が採用できると、入社後のミスマッチを防ぎいわゆる早期退職のリスクを押されることに繋がります。厚生労働省による就職後3年以内の離職率について、新規大学卒就職者は32.3%と報告されています(「新規学卒就職者の離職状況(令和23月卒業者)」)。日本政府も雇用の流動化を進めていることもあり、最近では若い世代を中心に、転職へのハードルも低くなるような傾向が指摘されています。せっかく時間とコストをかけて採用し育成しても短期間に退職してしまうと努力は水の泡となります。採用者のコストは、新卒か中途採用かによっても異なりますが、一人当たり90100万円ともいわれている中で、経営にとっても由々しき問題です。

業績・生産性の向上

例えば採用活動がうまくいかず、会社の価値観とずれた社員が入社した場合を考えてみましょう。上司だけでなく、周囲の同僚もなんとなく仕事のスタイルや考え方の異なる社員との協働にためらいがあり、小さな衝突が生まれます。その結果、本来必要な協働や思いやりが生まれにくい状態となります。新しく採用された人自身もなんとなく周囲に溶け込めないままとなり、不満を抱えた状態で組織に居続けるとやがてチーム業績や生産性に悪い影響を及ぼすリスクがあります。一方で、採用広報によって適切な人材採用ができると状況はこの反対で、同じ理念に共感した社員は互いに尊重し協力し合います。長期的には業績面でもポジティブな効果があるでしょう。

企業文化の発展

採用広報によって、経営理念や価値観に共感した人が集まり入社した場合には、同じ目標のもとに一丸となれるので一人一人が異なる個性だったとしても違いを尊重し協働することができます。多様な人の集まりはむしろそれまで思いつかなかった古い慣習などを改善するきっかけにもなり、よいカルチャーが強化されるのです。カルチャーが変わることでイノベーションが起きることも期待できます。

採用広報が注目される理由

このように採用広報を行うことは経営観点からもメリットがありますが、そもそも採用広報が従来よりも注目され、企業自らも発信活動に携わるようになったのはどうしてなのでしょうか。いくつかの観点から背景について触れてみたいと思います。

  • 採用市場の激化
  • 多様で身近な媒体の普及
  • 求職者が求める情報の変化

採用市場の激化

総務省によれば、少子高齢化の進行により、日本の生産年齢人口(1564歳)は2065年には約4,500万人となる見通しです。これは2020年と比較し約2,900万人の減少となり、また総人口における割合は約5割に低下します。つまり慢性的な人手不足なることが想定されているのです。募集を出したら一定数の応募があるという時代ではなく、他社との激しい競争の中で優位に進めていく必要があります。なるべく早い段階でターゲット層にアプローチし自社を知ってもらう認知のための努力を継続的に行っていく必要があります。

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総務省「国勢調査」、「人口推計」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成291月推計)より作図

多様で身近な媒体の普及

企業自身で広報するとなると、それなりの社内リソースや専門的なスキルが必要ではないかと懸念の声が聞こえてきそうですが、最近では、人事や広報担当者にとっても使いやすいXFacebookInstagramなどのSNSYouTubeなどの動画メディアが登場しそれほどの負担になっていないという見方もあるようです。自社の情報をいつでも好きな時にスピーディーに発信できるとGreat Place to Work®顧客の中にも、これらの多様なツールを活用し、求職者向けの情報を頻繁に発信している企業があります。多い時で週1回の情報を発信し、企業への関心や信頼を獲得する努力を惜しみません。候補者も同時にあらゆる情報にアクセスしやすくなりました。よりリアルで会社の実態を把握できる情報が求められています。こうした変化を敏感にキャッチし採用広報を通じて意識した発信する企業ほど他社との差別化を図ることができるのです。

求職者が求める情報の変化

求職者はどのような情報を求めているのでしょうか。会社概要、勤務条件は言うまでもありませんが、特に新卒の学生など若い層ほど知りたい情報は変化しているようです。ビジネスSNSWantedlyは、Great Place to Work®との対談の中で、「特にミレニアル世代は、従来の価値観とは異なり、その会社で働く意味価値を大切にしている」と指摘しています。従来の外部採用媒体では情報の掲載方法も典型的であり、内容も限定的になりがちなのはある意味仕方のないことであったかもしれませんが、入社してみないと分からないこと、例えば、社員はどんな働き方をしているのか、職場の雰囲気はどうなのか、上司は厳しいのか、配属先は希望を聞いてもらえるのか等についても、できれば開示していきたいものです。

関連記事:勤務条件だけではミレニアル世代の心は動かない 未曾有の売り手市場で求職者にアピールすべきこと

採用広報の訴求ポイント

特に入社しないとわからないような自社の特徴を伝えていくためには、企業自身が社内の実態を把握し情報を集め、言語化するのが最も近道です。可能であれば自社で発信も行います。人手不足を嘆くだけでなく、新しい手法をどんどん取り入れて自社認知にむけて努力していくことが欠かせません。社内で広報活動にはあまりリソースを割けないという場合には、求職者がまさに求めているものに絞った情報提供から始めてみるとよいでしょう。

労働条件や制度の説明だけでは物足りないという求職者の声に応えるには、例えば、“制度は実際に公正に運用されているのか”、“働く人のやりがいを感じる場面はどういう時なのか”、“会社として社員のがんばりたい気持ちをどう支援しているのか”などを伝えてみるのも方法の一つです。

リクルートマネジメントソリューションズが行った「新人・若手の早期離職に関する実態調査」によれば、退職理由の上位3つは、「労働環境・条件がよくない」(25.0%)、「給与水準に満足できない」(18.4%)、「職場の人間関係がよくない、合わない」「上司と合わない」(共に14.5%)となりました。3つ目の人間関係については、実際に入社しないとわからないという性質のものと理解できますが、上位2つについては入社前にもある程度情報収集ができるようにも思います。情報を開示していたとしても、伝えている情報が実態と合っているか、入社後に求職者の期待とずれてしまったとするならば、なにが要因なのか深堀する必要があるのではないでしょうか。

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(出典)リクルートマネジメントソリューションズ 「新人・若手の早期離職に関する実態調査」

採用広報のメリット

採用広報はどのようなメリットをもたらすのでしょうか。採用広報しない場合との比較で考えてみるとわかりやすいかもしれません。

ここでは以下の3つを取り上げますが、いずれも多くの採用担当者が悩みやすい状況において効果が発揮されることが分かります。

  • 母集団形成のしやすさ
  • プロセスの効率化
  • 内定辞退率や早期退職の減少

母集団形成のしやすさ

まず積極的に情報発信することによって、会社の認知度は上がります。単に応募者が増えるというより母集団の質に貢献します。採用広報によって、これまで応募してこなかった人が手を挙げるようになる、価値観があった人が集まる可能性が高まるからです。特にBtoCの事業であれば商品の購買やサービスの体験によって知名度はある程度確保できますが、BtoBともなると知ってもらう機会は限定的であるので、効果はより感じられるでしょう。

プロセスの効率化

採用広報がうまく機能すると自社にあった候補者が集まりやすくなるので、面接で話す内容もレベルアップが期待できます。ある程度自社理解が進んだ候補者からは本質的なやりとりが可能となるでしょう。求める人物像に近い人との面談は、こちらの質問について想定した回答が得られたり、よいふるまいが期待できたりするので、追加の質問や面接などをする必要が少なくなります。その結果、採用プロセスを効率的に進めることができます。

内定辞退率や早期退職の減少

採用広報によって、会社の理念や価値観に共感し、選考プロセスを通じてカルチャーフィットが確認できた人は、入社後に多少の配置の不満や現場の問題に直面してもそれを理由としてすぐに退職するようなことは起こりにくくなります。また採用担当者にとって悩みの種である内定辞退も少ない傾向にあります。会社選びの条件に、報酬や福利厚生も大事な要素ではありますが、その前に会社が目指す方向性に深く共感した社員はしっかり会社にコミットしています。内定辞退率を下げたり、入社後の離職を防止したりすることは、採用者の労働時間の削減に寄与します。つまり採用コスト削減につながるのです。

採用広報の主な方法や媒体

次に採用広報のための方法や媒体について取り上げてみたいと思います。採用マーケティングにおけるファネル(求職者の自社認知~入社までの採用プロセス)ごとによく活用される媒体や発信内容を整理してみました。

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認知フェーズ

このフェーズでは、まず自社を知ってもらいます。業界や企業を幅広く研究している求職者に向けて広く自社をアピールします。事業概要や競争優位性など他社との差別化ポイントをしっかり伝えるとよいでしょう。この段階では多くの潜在層にアプローチすることが大切なので、就職情報サイトや合同説明会など外部のリソースを活用することも有効でしょう。

興味~応募フェーズ

このフェーズでは、自社で働くことに興味を持ってもらい、応募先として候補に選んでもらうことを目的とします。具体的な仕事内容、職場の雰囲気、どんな社員が働いているかなどより詳細に伝えていくことがポイントです。自社の採用ページやブログなどをフルに活用します。また説明会といったリアル場では直接的に働きかけることが大切です。

選考~内定・入社フェーズ

このフェーズでは、面接などの選考の場を通じて入社への動機付けを行い、入社意欲を高めてもらいます。最終的に自社への入社を促します。自社で必要な情報は十分伝わっているか確認したり、求職者の不安や本音を引き出したりしながら、誠実な回答をすることが信頼関係につながります。先輩質問会など職場で活躍している社員との接点を持つことも有効です。

採用広報の媒体の特徴

各採用ファネルでは、求職者の採用活動における心理的状況に寄り添って伝えるメッセージを変えていく必要があります。よって、可能であればコンテンツに応じて効果的な媒体を選択することも大切です。以下に媒体とそれぞれの特徴についてまとめてみます。

自社ホームページ

最も身近なものとしてお勧めなのは、自社ホームページです。おそらく候補者の大多数が応募前に確認するでしょう。会社概要、沿革、財務情報など多くの情報を網羅的に掲載することが特徴です。できる限り透明性高く開示します。企業理念、ミッション・ビジョン・バリューについても明確であるとよいでしょう。

自社採用ページ

いろいろな部門で働く社員のインタビューが掲載されているとよいでしょう。現在の仕事内容や志望動機に加えて、どんな時にやりがいを感じるか等ついてもコメントがあると働くイメージが湧きやすくなります。自社の認知度を高め、中長期的な母集団形成に寄与します。

SNS

FacebookやXなどSNSを利用する企業も増えています。新卒採用者や若手中途対象者向けには利用者が多く身近な媒体であること、メッセージがコンパクトに伝わりやすい手段であることが主な理由です。写真を掲載できたり文体も自由であったりするので、社員の様子や職場の雰囲気など伝わりにくいカルチャーを表現するのに適切だといわれています。ポジティブな情報だけではなく、課題と思われるようなことも対応策などと共に語られると距離感が近くなったりするでしょう。

就職情報サイト

母集団形成においては安定的な存在です。様式が決まっていることがあるので他社との違いなどを伝えることが大切です。専門チャネルであるので、短期間に多くのエントリー数を獲得したいというニーズには適しています。

Web広告・外部イベント

求人情報の専門サイトに広告を出したり、採用イベントに参加したりして幅広い求職者と接点を持つのに有効です。もともと職探しをしている人を集めているので自社の認知を上げる有効な手段です。一方で、費用がかかるというデメリットがあります。

入社案内、フライヤー

紙媒体で自社をアピール方法もあります。種類はコンパクトなフライヤーや、冊子のようなページ数がある程度あるものなど多様です。会社説明会やあるいは内定時に渡す場合もあり、潜在層というよりある程度入社志望の高い候補者に対してさらに魅力づけするような目的で使用されています。形にあるものを手にすることで、Webだけでは感じることができなかった自社の強みをアピールできる手段として有効です。ただ耐久性や情報のアップデートなど使い勝手の難しさがあります。

採用広報の最新トレンド

このように採用広報の発信媒体は多様化していますが、自社でできる最新のトレンドについても紹介します。

ブログ

Great Place to Work®の認定企業の中には、noteを活用し「働く人へのアンケート結果」(全員が参加する)から見られる自社の強み(結果の良かったところ)、成長の機会(課題と思われるところ)をオープンにしている会社があります。課題については経営陣がどうしていくのかについて語ることでネガティブな印象が補われています。ポジティブ情報だけでなく、組織の実情を多角的に伝えているのはその会社ならではの特徴として素晴らしい点です。媒体の持つ発信のしやすさも一助になっているでしょう。

動画コンテンツ

YouTubeを活用した動画を自社で作成し配信する企業もあります。内容は最近社内で実施されたイベントの様子や、個人の仕事の価値観を語るインタビューといったものです。ホームページで掲げられている経営理念、ミッション・ビジョン・バリューをより職場で実践されている事例としてわかりやすく候補者に伝えられるメリットがあります。動画はビジュアルにも訴えることができるので、きれいに作られているよりも誠実さや会社らしさを伝えることができ共感を得やすいツールです。

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採用広報戦略の立て方 ~5つのステップ~

採用広報はどのように設計したらよいでしょうか。戦略の立て方として、5つのステップをご提案したいと思います。

  • ステップ1:採用広報の目的を明らかにする
  • ステップ2:求める人物像を決定する
  • ステップ3:メッセージ内容を磨く
  • ステップ4:媒体を選択する
  • ステップ5:アクション実行・振り返りを行う

ステップ1:採用広報の目的を明らかにする

活動を始める前に採用広報の目的を定めましょう。具体的に集める候補者数や内定受諾率といった数値目標ではなく、採用活動における現在の解決した課題や達成した際に期待できる組織のありたい像などをイメージしながら言葉に落とし込みます。その際、振り返りたいのは、以下のような観点です。

  • 中長期における経営計画はなにか、事業戦略はなにか
  • その達成における組織ポリシーはなにか
  • 採用活動はどうあると望ましいか

ステップ2:求める人物像を決定する

次に、採用する候補者の人物像を描きます。ステップ1で立てた目的からどういう人物を採用するべきなのかイメージしてみます。

  • 候補者に求める能力・スキルはどのようなレベルか
  • 自社のカルチャーにフィットする人物とはどう表現されるのか
  • 現在自社おけるハイ・パフォーマーの特徴はどう表現されるのか

その際、求める人物像の期待値が高すぎないか(あるいは低すぎないか)確認することは大切です。すべて満たせなくてもこの条件は必須、この条件はあれば望ましいなども予め定義できているとよいでしょう。

ステップ3:メッセージ内容を磨く

通常、採用広報で伝える内容には、「会社」「仕事」「労働環境」の3つ主たるファクトが欠かせません。「会社」では、自社の経営理念(ミッション・ビジョン・バリュー)、事業内容(他社比較における優位性)を伝えます。「仕事」では、仕事の種類や会社からの期待を伝えますが、特にどういうところに“やりがい”が感じられるのか、地域や社会貢献との繋がりも語れるようでしたらよいでしょう。そして「労働環境」では、「人事制度・働き方」、「福利厚生・メリット」を伝えることになりますが、会社の雰囲気などを伝えることも忘れないようにしましょう。

またメッセージを磨く際に必要なポイントが2つあります。

求める人物像(ターゲット)を意識して響く言葉を選ぶ

メッセージは受け取る相手をイメージして響く言葉を厳選します。ステップ2で明らかにした人材像をできるだけ細かくイメージすることで、何を会社や仕事に期待する層なのか想像することができます。採用広報では、不特定多数に単に自社をアピールしても意味がないのです。

自社の特徴を伝える

採用広報の目的の一つにまだ自社を認知していない潜在層へのアプローチが含まれます。よって、多くの企業から求職者が「面白そう!」と興味を持ってもらえるような特徴を伝えていく必要があります。他社より優れたものはないと思う企業にはぜひ「ジョハリの窓」を使った自社施策、あるいはよいカルチャーの棚卸しをお勧めします。これは自己分析をする際に用いられる有名なフレームワークですが、下図の左上の「開放の窓」(自社が知っている、求職者が知っている)をできるだけ拡大することを勧めています。4つの窓に相当する自社の特徴を経営者、人事部、あるいは採用のプロジェクトメンバーで話し合ってみると、伝えるべき自社の特徴が見えてくる可能性があります。この時、自社の特徴とは「強み」ばかりではなく「成長の機会」(まだ未整備であるがこれから着手するもの)についても話し合ってみると自社らしさが浮き彫りになるでしょう。

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ステップ4:媒体を選択する

次の採用ファネルごとに適切な媒体を選択します。外部メディアやツールの使用には費用がかかるので、コストや期待する反応数などはフェーズごとに数値目標があるとよいでしょう。昨年の振り返りから特に強化したいフェーズや新しいチャンレジはなにかなど、KPIを設定して取り組むと振り返りの際に大変参考になります。

媒体の種類については、上述の「採用広報の主な方法や媒体」を参考にしてください。

ステップ5:アクション実行・振り返りを行う

最後に決定した広報活動を実行します。そして数値目標を立てている際には振り返りを行い、達成度合いを見ながら、次年度の計画をメモしておくとよいでしょう。採用活動はプロセスが多様・複雑で長期に渡りますが、発信される情報には一貫性を持たせることが大切です。それは、説明会や選考ために会社を訪問した際に接する人事担当者や採用プロジェクトメンバーにも求められる態度でもあります。そういう意味でもステップ1で述べた目的については全ての関係者が理解しておく必要があるでしょう。

また会社のミッション・ビジョン・バリューは従業員の日々の活動に落とし込まれていると採用においては特に強みとなります。

関連記事:ミッション、ビジョン、バリューとは?違いや組織浸透について解説

採用広報の担い手

採用広報に携わる適切な担当部門、担当者についても触れておきたいと思います。採用活動といえば、「人事部」でしょうか。あるいは、広報というからには、「広報部」なのでしょうか。「経営企画」が担うべきという意見もあるかもしれません。正解はありませんが、働きがい認定企業にお聞きしてみると、複数の部門の担当者が協働して行っているケースが多いかと思います。例えば全体設計(採用目的やKPIの設定)は人事部が行うものの、メッセージの落とし込みやメディア戦略は広報部が担うといった形です。ただ組織がそれほど大きくない場合には、1名の担当者が採用も広報も担当しているケースがあります。その場合、社内の協働者をうまく巻き込むかことがポイントになります。例えば、ブログなどの原稿の執筆は経営者や経営幹部に依頼するといった工夫です。

採用広報を成功させるための5つのポイント

採用広報を行う上ではどのようなことに注意したらよいでしょうか。実際にGreat Place to Work®の働きがい認定企業で取り入られている事例から5つのポイントを示したいと思います。

  • ポイント1:バラエティに富んだ発信
  • ポイント2:自社オリジナリティの特化
  • ポイント3:多様な関係者の巻き込み
  • ポイント4:誠実さと人間味
  • ポイント5:一貫性へのこだわり

ポイント1:バラエティに富んだ発信

採用広報は、自社の広報活動であるので発信内容や手段は多様(バラエティ)であるほどよいでしょう。経営者のブログ、社員インタビュー、会社イベントなどの情報を、ホームページのみならずnoteFacebookなど、可能なあらゆる媒体を使って発信します。上述の取り、ツールには掲載するコンテンツをより生かす特徴があるので、どんな媒体がより自社を魅力的に伝えられるのかを設計しながら選択できるとよいでしょう。

ポイント2:自社オリジナリティの特化

発信する内容の中に、きらりと光る自社ならではのユニークな内容があるとよいでしょう。例えば、他社ではあまり導入されていない人事制度や福利厚生がある場合、自社の特徴としてアピールポイントになります。また組織が外部から認証されていることも強みと言えます。採用広報は、自社による魅力の発信活動と上述しましたが、その内容の信頼性を高めるためには組織が第3者によってお墨付きであるとよいでしょう。

ポイント3:多様な関係者の巻き込み

採用広報は一部の固定メンバーがすべて行う必要はありません。コンテンツの作成にあたっては、経営ボードメンバーや一般社員を巻き込みましょう。中小企業では、ブログの執筆は経営陣に丸ごとお願いしているケースもお聞きします。読み手からみると、人事部だけではなく、組織のさまざまな人が語っている様子はとても安心します。リアルな情報であるのと同時に率直な思いがダイレクトに伝わります。

ポイント4:誠実さと人間味

内容は、わかりやすく明確であることは必須条件です。広報、という言葉からも連想されるように、外部発信において基本となる“わかりやすさ”、“明確さ”は欠かせないポイントといえます。しかしそれに加えて大切なのは、内容に誠実さがあることです。Great Place to Work®働きがい認定企業では、組織の良い点も悪い点も同じくらい正直に発信しています。また社員インタビューなどで実際に苦しかった体験や仕事で困難に出会った体験なども隠さず伝えるようにしているようです。

ポイント5:一貫性へのこだわり

発信されているコンテンツは、採用ブランディングとの一貫性があることが大切です。自社の経営理念に基づいたコンテンツであることは、求職者がどの媒体で情報を入手したとしても、貴社が本当に伝えたいメッセージが一貫していることで信頼を抱くことができます。さらに実際の採用選考で出会った面接官や先輩たちがブランドイメージを体現していることが望ましいです。会社に来て出会った人たちが、これまで獲得してきた情報のイメージとリアルにマッチしたとき、候補者は感動し入社動機にもつながるのです。

採用広報の企業事例

採用広報の具体的事例としてGreat Place to Work®が選定した働きがい認定企業の取り組みをいくつか紹介します。

一貫したメッセージを伝えきることで自社の求める人物像をぶらさない

レバレジーズ株式会社(大規模・情報技術)では、人事ポリシーとしてキャリア自律を重視しており、採用においても求める人物像の要件に入れています。採用段階でWillを共に確認し合いながら、入社後も自身のキャリアを自ら切り開ける人物であるかを見ています。そのことで入社後のミスマッチを防止しているのです。たとえ本人の能力が高くても、Willが合わなければ採用しないこともあるそうです。求める人物像を描くことで選考基準がぶれないことを証明してくれる事例です。

関連記事:レバレジーズ株式会社

人材紹介会社にも自社の魅力を徹底的に伝える

採用活動では100名のエントリーで採用するのはわずか2名から3名という株式会社コンカーでは、多くの転職エージェントとの接点を持っています。そして、経営戦略や経営課題、自社で働くことの魅力についてなどを、定期的にエージェントの方々にも伝える機会を設けているそうです。「コンカーを職場に選ぶ理由」という資料をインターネット上に公開し、エージェントや転職希望者がいつでも自社の魅力に触れられる工夫もしています。外部のパートナーにも採用ポリシーをしっかり伝え、ぶらさない姿勢が一貫しています。

関連記事:株式会社コンカー

働きがいの認定を受けたことをSNSで発信し人材を集める

医療機器のグローバル企業、日本ストライカー株式会社ではGreat Place to Work®の働きがいのある会社調査の結果、働きがい認定を受けた事実を、SNSを通じて広く発信しています。そのことで、ビジネスパートナーであるドクターからの信頼を高めることはもちろん、中途採用の候補者からも「働きがいのある会社で働きたい」という言葉を受けているようです。自社の魅力を第3者の認証を活用しながら高めているよい事例といえます。

関連記事:日本ストライカー株式会社

コアバリューを従業員で決めることで強固なカルチャーを形成する

採用において特にカルチャーフィットを重視するブラックライン株式会社では、選考プロセスにおいて「一緒に働きたいか」という価値観を確認しています。面接者はマネジャーのみならず現場の社員も関わります。そのため全員がカルチャーを理解できている必要がありますが、この会社では「コアバリュー」を全員で決めています。定期的に学習する機会を設けたり最もコアバリューを体現できた社員を表彰したりすることで、日頃から意識できるようなレベルを維持されています。採用候補者もこうした面接者が言行一致されている会社に出会うとき安心するのではと感じる事例です。

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優秀な人こそ「働きがい」が重要であり共感を得られる環境づくりに注力する

国内最大級のビジネススクール(MBA)「グロービス経営大学院」等を展開する株式会社グロービスでは、人の成長をサポートできる人材採用が欠かせません。重視されているのは、「働きがい」。堀義人氏によれば、「優秀な人たちに高額オファーがくるのは当たり前。金銭面だけでなく、共感・共鳴できる環境づくりが大事」と語られています。働きやすさよりも「働きがい」のある組織づくりが他社との差別化ポイントであるとポリシーが明確な事例といえます。

関連記事:株式会社グロービス

採用広報と組織開発

最後に採用広報における差別化ポイントについてお話しします。企業の採用担当者の立場としては求職者にアピールしたいことは色々あるとは思いますが、特に自社ならではの特徴のある制度・福利厚生や一般的には入社しないとわからない自社のカルチャーについて伝えていくと良いでしょう。制度については内容の紹介だけではなく、例えばオープンポジションの制度(社内で空きのあるポジションに自ら志願できる制度)があれば年間何人くらいの人が応募してどういうポジションに異動したのか、そのことで個人のどのような成長につながったのかなど本人のインタビューと共に語られていると実感が伝わるでしょう。またカルチャーについては言語化が難しい部分もあるかもしれませんが、例えば、“チャレンジを奨励している風土”であれば、実際に社員の発意でどんなプロジェクトがあってどんなことが成し遂げられたのか、結局失敗してしまったが社内ではどんな反応であったのかなどが率直に語られていれば十分なのです。

しかし自社らしさは、常に磨いていく必要があります。カルチャーは新しい人にもきちんと伝承していかなければやがて形骸化してきてしまうのです。よって経営には、継続的な組織開発の努力が求められます。そしてその努力は実際新しい人が入社した際に報われるともいえます。せっかく採用広報で魅力づけされた人物が入社しても実態と異なっていればギャップを感じて、最悪の場合、短期離職してしまいます。継続的な組織開発を行うには、定期的な測定が必要です。現状が測定できないと対策を打つことはできません。自職場のカルチャーにネガティブな変化がないか、職場の従業員はどう感じて働いているのか、従業員へ配布する「働く人へのアンケート」の実施によってデータで実態をみることをお勧めします。

採用広報をより信頼の高いものに

本コラムでは、採用広報とは何かを整理することで自社に合う人材といかに出会っていくか、あるいは採用によくある課題をどう解決することができるのかについてヒントを探ってきました。情報にあふれた時代、求職者は多様な手段を通じて企業情報を調べることができます。しかしながら、職場で働く人のモチベーションややりがいなどは、まだまだはっきり見て取れる状況とは言い難いのではないでしょうか。この部分を企業がどこまで開示し伝えていくのかが問われています。勇気のある行動とも言えますが、ここをしっかりやることが採用で勝ち抜く道であり、人的資本経営の開示の流れにも合っている動きといえるでしょう。

さらに発信内容に信頼性を持たせるには、率直にリアルを伝えるという企業姿勢そのものが大事であることは言うまでもありません。加えて、第3者によって評価してもらうこともお勧めです。Great Place to Work®が提供する働きがい認定は、その企業で働く社員の働く実感値をベースに評価を行っており、認定が取得できるとその企業の働きがいが高い状態であることを示すことができます。ぜひ一度どのような制度なのか確認してみてください。

Great Place To Work(R) Institute Japan シニアコンサルタント 今野 敦子

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名古屋大学大学院経済学研究科(経営管理学)修了
フランス国立ボンゼショセ工科大学MBAコース取得。
外資系航空会社、医療系商社の人事部を経て、リクルートマネジメントソリューションズに入社。人事領域において、採用・制度設計・人材育成など一連の業務に携わる。
2009年GPTW Japan設立メンバーとして、事業立ち上げに参画。働きがいのある職場を目指す多くの企業などに調査分析、経営層への提言と支援を行う。

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